2015年08月29日

笹本祐一『ARIEL SS 終わりなき戦い』

〈2015年読書感想20冊目〉
笹本祐一『ARIEL SS 終わりなき戦い』


 〈ARIEL〉番外篇シリーズの第3作目。表題作である中篇「終わりなき戦い」とシェラを主人公とした短篇「戦士と乙女」が収録されています。「終わりなき戦い」はこれまでの番外篇とは異なり,本篇終了後の未来が描かれています。銀河帝国の傘下に入った地球人たちがたくましく宇宙進出をする姿が嬉しい。とは言っても,登場するのは岸田博士と美亜,それに由貴の三人くらいですけれども。絢や和美,天本教授たちがこの未来で如何なる動きをしているのかも知りたかった。尤も,絢に関しては本篇の最終回で宇宙へと旅立ったことが明記されていますので,「終わりなき戦い」でも登場は可能だったと思います。期待が外れてちょっと残念ではありました。その分はいつも通りの岸田博士と美亜の活躍で十分に補うことは出来ていますけれども。由貴はダイアナの部下として英才教育中。ハウザーたちにとっては更に厄介な存在が増えるであろうことは容易に想像がつきます。

 「終わりなき戦い」は侵略会社任務で訪れた星域でハウザー率いる戦艦ルキフェラスと岸田博士自らが乗り組む調査船摩利支天が出逢う物語。岸田博士に翻弄されるハウザーの姿が楽しい。このふたりの互いを認め合っている関係は非常に好みであります。性格が似ているとは思えないのですけれども。そして,ハウザーを支えるシモーヌやデモノバもきちんと活躍してくれます。何よりも,最終盤の決戦であの変態坊やことニコラス・フィーラーがまさかの登場を果たす優遇ぶり。ニコラスまでもを動かしてしますダイアナ姉さんの剛腕が猛威を振るっています。そこに西島由貴まで加わったのですから,ハウザーには心の休まる暇がないことでありましょう。なお,本作で敵役を務める海賊サルバトール・エーリクもなかなか魅力的でありました。いつか,ハウザーと共に戦う日が来るのかもしれません。また,ナミ・ファランドールの可憐な不遇ぶりも楽しかったです。あのフォルクスワーゲンの活躍も嬉しい。岸田博士ならずともナミとフォルクスワーゲンをその手に収めたくなってしまいます。「戦士と乙女」はシェラが運命の出逢いを果たす物語。ハウザーの悩みの種が増える物語と言い換える事も出来ます。父である銀河帝国第三艦隊司令ゲルハルト・ソノート・ハウザーの要請により,海賊に人質に捕らわれたシェラを含む聖帝国女学院の学生を救出すべく,作戦を立案するハウザーが格好いいです。最後のクレスト・セイバーハーゲンに全部持っていかれましたけれど。ハウザーが周囲から高く評価されていることが分かるお話でもありました。

 如何にも〈ARIEL〉らしいお話で大満足。やや理屈っぽいところも含めて十分に好みであります。改めて岸田博士とハウザー艦長の魅力を感じた物語でありました。振り回す側と振り回される側の息の合い方はまさに芸術的と言える程の予定調和であります。〈ARIEL〉本篇は綺麗に終わったことを承知の上でやはり続きが読みたいですね。銀河帝国の遥かに高度な科学技術を手に入れた地球人が如何なる方向へ進んでいくのかを見届けたいのです。或いはその科学技術に触れた岸田博士や天本教授が如何なる感慨を抱くのかも。調査船摩利支天で宇宙を巡る岸田博士のこれからに想いを馳せずに入れらない素敵な物語でありました。
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2015年08月25日

購入記録(2015.08.25)

峰守ひろかず 絶対城先輩の妖怪学講座(7) メディアワークス文庫 ¥637

『絶対城先輩の妖怪学講座』の事実上の第二部開幕。
如何なる方向へ物語が進んでいくのか楽しみ。
その鍵はのっぺらぼうの彼女が握っているのでしょうか。
とりあえず今巻の題材は座敷童とのこと。
あまり変な方向に進んで欲しくないといいのですけれど。

〈2015年書籍購入覚書〉 計65冊
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2015年08月24日

田中芳樹『アルスラーン戦記(8)仮面兵団』

〈2015年読書感想19冊目〉
田中芳樹『アルスラーン戦記(8)仮面兵団』


 ペルシア風異世界を舞台とした架空歴史大河小説の第8巻。この巻から第二部に突入しています。パルス王国を蹂躙したルシタニア王国との戦いが描かれた第一部とは異なり,第二部では地上への再臨を図る蛇王ザッハークの眷属との戦いが中心になる筈。今巻ではミスルやチュルクなど周辺諸国との戦いが描かれますが,他方ではアンドラゴラス三世の遺体が喪失するなどの不穏な事態も生じ,今後の波乱を予感させます。ギスカールやヒルメスといった雄敵も未だに健在である上に特権を失ったパルス王国の旧名門貴族の不満も高まっており,若きアルスラーン王としては内憂外患の状態となっています。改めて見ると,かなり危機的な状態にも思えるのですが,それを感じさせないのがナルサスの戦略というものでしょうか。

 十六翼将を始めとして多彩な人物が登場しますが,それぞれに相応の出番があるのが素晴らしい。特に今巻では蛇王ザッハークを奉じる魔道士グルガーンとファランギースとの間に因縁があることが示唆されました。魔道士も残り少なくなってきた中でグルガーンが如何なる役回りを果たすのか楽しみです。また,パルスを放逐されたギスカールは仇敵ボダンからマルヤム王国の一部を奪取しました。パルスの支配は結局失敗に終わったものの,その咎の全てがギスカールに帰するものではありません。寧ろ,ギスカールがいたからこそ,ルシタニアが一度はパルスを征服したと言えるくらいです。その意味ではパルスにとっても危険な隣人の登場ということになりましょう。そして,失意のうちにパルスを去ったヒルメスはチュルク王国のカルハナ王のもとに滞在していました。イリーナ王女を失った彼がその胸に抱く祖国への苦い想いが痛々しい。一先ずはカルハナ王のもとでパルスと戦う道を選びましたが,ヒルメスがいつまでも他者に仕えているとは思えません。パルス王家の血を引く唯一の存在として矜持を見せて欲しいものです。アルスラーンのもとで戦う姿も見たいけれど,それは叶わぬことでありましょう。或いは蛇王ザッハークという共通の難敵を相手にするのに一時的に組むことは有り得るかもしれませんけれども。ヒルメスとギスカールは特に好きな人物なので今後の立ち位置が非常に気になります。どちらも生き残って欲しいものですが,どうなることでしょうか。

 文庫化に際しての久しぶりの再読ということになりましたが,やはり面白い。第二部開幕にあたる今巻はまだ蛇王ザッハークの眷属はそれ程表立った動きは見せていません。とは言え,グルガーンの暗躍やアンドラゴラス王の遺体の喪失など邪悪な胎動を感じさせるのが楽しい。また,尊師の憑代として用意されたトゥラーンの狂戦士イルテリシュも期待感を煽ります。魔道士たちの思惑通りに行けば,アンドラゴラス王とイルテリシュがアルスラーンの敵として再臨するわけですから,これは楽しみでなりません。とは言え,予定通りにはいかないのも世の常というもの。再び苦難に満ちた戦いを強いられるアルスラーンとパルス王国の行く末に安寧があることを祈ります。
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2015年08月23日

購入記録(2015.08.23)

クリストファー・プリースト 双生児(上) ハヤカワ文庫FT ¥972
クリストファー・プリースト 双生児(下) ハヤカワ文庫FT ¥972
太田紫織 櫻子さんの足下には死体が埋まっている 蝶は十一月に消えた 角川文庫 ¥605

『双生児』は待望の文庫化ですが,二分冊というのがいただけない。
早川書房や東京創元社のこの手法は好みではありません。
十分に一冊にまとめられる分量だと思うのですけれどね。
『奇術師』が面白かったので作品自体には期待しています。
『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』は第4作目。
第3作目に大きな転換点があったように思います。
それが今巻で如何なる方向に進んでいくのか楽しみです。
やや唐突だったきらいは否めませんけれどね。

〈2015年書籍購入覚書〉 計64冊
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2015年08月22日

加藤実秋『インディゴの夜 ロケットスカイ』

〈2015年読書感想18冊目〉
加藤実秋『インディゴの夜 ロケットスカイ』


 夜の渋谷を舞台に個性的なホストたちの活躍を描く〈インディゴの夜〉シリーズの第6作目。長篇だった前作とは異なり再び短篇集の体裁に戻っています。〈インディゴの夜〉はこの構成のほうが好き。とは言え,最初の三篇で断片的に語られていた事件が最後の作品の主題となるなど,連作短篇としての要素も備えています。扱われる事件は相変わらず重たいもの者多いのですが,club indigoのホストたちの軽さと明るさに救われます。今作末ではそのclub indigo自体にも大きな転機が訪れますが,これが次回作以降に如何なる影響を及ぼすのか楽しみです。とは言え,晶と塩谷,それに憂夜さんがいる限りはclub indigoの雰囲気が大きく変わることはないのでしょうけれども。今作でも憂夜さんの謎めいた趣向が楽しいです。いつか,この人の真実が語られる日が来るのでしょうか。

 収録されているのは全部で4篇。「スウィートトリック」ではスイーツ刑事こと早乙女刑事が再登場。晶の天敵である柴田刑事と並んで常連化しつつある気がします。勿論,今回も甘いものに関する知識を披露してくれます。「ラシュリードライブ」は若手ホストの酒井くんが事件に巻き込まれます。手塚くんの予想の斜め上を行く怒りの対象が楽しい。二重構造となった事件そのものも面白かったです。ジョン太やアレックス,DJ本気らが人質となってしまったが故に若手ホストたちが主となって活躍する趣向も楽しい。これが後の伏線であったのでしょう。「見えない視線」はclub indigoの客である栞がストーカーされる事件が描かれます。事件としては大したことはないのですが,如何にも〈インディゴの夜〉といった雰囲気のある物語です。表題作「ロケットスカイ」はジョン太の旧友が被害にあった傷害事件が意外な方向へと発展していきます。また,晶と塩谷との間の不穏な空気もあって,雑然とした雰囲気が漂うことは否めません。とは言え,結局は落ち着くところに落ち着くのが嬉しい。そして,この事件が契機となってジョン太がclub indigoから去ることになりました。寂しくなるのは確かですが,旅立ちのときということなのでしょう。主役ではなくなったとしても,折に触れて登場することを願いたいと思います。

 相変わらずの瀟洒で陽気な雰囲気が楽しい。大人げない大人でありながらも,時に年長者として若手をきちんと導く晶と塩谷が非常に格好いいです。憂夜さんは既に謎めきすぎて異質な存在ではありますけれども。手塚くんや酒井くんといった更に若手の現代っ子ホストもすっかり定着してきました。これまでclub indigoの中心となって活躍してきたジョン太が去ったことで,如何なる変化が起きるのか楽しみです。次回作でそのあたりが描かれることに期待します。なお,漫画版を担当する白木苺による描き下ろしがいい味を出していました。この雰囲気なら漫画版を読むのも悪くないかもしれません。
タグ:加藤実秋
posted by 森山樹 at 11:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想