2015年11月30日

高田崇史『神の時空 嚴島の烈風』

〈2015年読書感想43冊目〉
高田崇史『神の時空 嚴島の烈風』


 日本史に眠る怨霊の復活とそれを阻止する者たちの戦いを描く〈神の時空〉の第5作目。その題名が八卦から取られているものだとすれば,今巻がちょうど折り返しを過ぎた地点ということになります。今回の題材は広島県の厳島神社。平清盛や毛利元就などに縁のある,所謂宮島ということになります。これまでに扱われた場所の中で最も馴染のあるところだけに期待は大きかったのですが,結果的には良くも悪くもいつも通りの〈神の時空〉でありました。相変わらず,殺人事件が発生する必然性が皆無に等しいのが残念。更に本筋の物語とも特段絡んでこないように感じます。その一方で厳島神社を中心とした宮島に秘められた謎解きは素直に楽しかった。この乖離がこれまで以上に目立ってしまうのは大きな問題に思えます。また,死んだ摩季を蘇らせる為の時限として初七日までという設定の為に此処までの5巻分の出来事が僅か4日のうちに起きているというのはやはり無理を感じます。京都から東京に戻って,即座に広島に移動というのは現実的に不可能ではありませんが,無意味な慌ただしさに思えてなりません。その割には登場人物たちが何処かのんびりしていますしね。舞台装置としての設定に失敗しているように感じます。

 今回の題材は厳島神社ということで祭神である市杵嶋姫命の謎が解き明かされます。このあたりは素直に楽しかった。尤も,いつも通りの作者の文法が駆使されるので,其の解答は見通し易いと言えば見通し易いのですけれども。但し,毎度のことながら,その答えを全て火地の口から語らせるというのは如何にもつまらない。それならば最初から火地の語りだけで物語は成立してしまいます。このあたりは工夫を求めたいように思います。最初から解答を持っている人に聴きに行くだけのお話に面白さは感じません。というか,毎日毎日聴きに来られたら,それは火地だって嫌な顔をするだろうと思います。物語の本筋である怨霊復活を企てる謎の男,高村皇が遂に此処に至って辻曲家のひとりと遭遇したのはちょっと興味深かった。この邂逅が如何なる作用を齎すのかは楽しみです。高村皇が怨霊を解放する目的の一端が明かされたのは面白かったけれど,其の目的が果たされた先に彼が何を望むのはいまだ不透明であります。何故,この機に彼が動いたのかということも含めてきちんと明かされることを望みます。名前から判断するとやはり小野篁に縁はある気がするのですが,どうなのでしょうか。辻曲家に疑念を抱く華岡警部補も毎回登場しますが,彼の存在意義も不明。このあたりが機能すれば物語も多少は深みを増す気がするのですけれども。少なくとも此処までは同じことが繰り返されるだけで物語として成立していないように感じます。もう少し動きがあって欲しいものです。

 今巻もまたいつも通りに厳島神社の謎解きは存分に堪能しましたが,それ以外の部分では失望を感じました。特に殺人事件が語られる意義を全く見出せません。此処までぞんざいに扱うのならばいっそのこと失くしてしまってもいいのにとさえ思います。〈QED〉や〈毒草師〉,〈カンナ〉に比べて,中心となる人物が不透明なのもその原因なのかな。結果的に部外者である火地が日本史に秘められた謎解き役を担い,殺人事件は割と適当に解決してしまうということに繋がってしまっています。この構造自体を見直さないことには立て直しは厳しい気がします。残す3巻で如何にまとめてくるかは期待したいところではありますけれども。
タグ:高田崇史
posted by 森山樹 at 07:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想

2015年11月28日

購入記録(2015.11.28)

シャーリィ・ジャクソン なんでもない一日 創元推理文庫 ¥1,296
朱川湊人 なごり歌 新潮文庫 ¥680

『なんでもない一日』はシャーリィ・ジャクソンの短篇集。
評判が存外にいいので楽しみにしています。
やはりホラー小説は短篇が好みですね。
『なごり歌』は『かたみ歌』の続篇かしら。
朱川湊人らしい郷愁溢れる作品の予感がします。
いずれも好みの作家なので期待は大きい。
徐々に読んでいきたいと思います。

〈2015年書籍購入覚書〉 計113冊
posted by 森山樹 at 18:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 購入記録

2015年11月25日

購入記録(2015.11.25)

峰守ひろかず お世話になっております。陰陽課です メディアワークス文庫 ¥637
葉山透 0能者ミナト(6) メディアワークス文庫 ¥572

『お世話になっております。陰陽課です』は峰守ひろかずの新作。
『絶対城先輩の妖怪学講座』と同じくオカルトを題材にした作品かな。
如何なる方向性の物語となっているのか楽しみです。
読む優先順位は高くなりそう。
『0能者ミナト』は第6巻を購入しました。
既刊の半分を超えた計算になります。
新刊が出るまでに追いつくことが出来れば僥倖でありましょう。
此方もすっかりはまってしまっています。

〈2015年書籍購入覚書〉 計111冊
posted by 森山樹 at 15:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 購入記録

2015年11月24日

購入記録(2015.11.24)

ピーター・トレメイン 消えた修道士(上) 創元推理文庫 ¥1,145
ピーター・トレメイン 消えた修道士(下) 創元推理文庫 ¥1,145
ケルスティン・ギア 紅玉は終わりにして始まり 創元推理文庫 ¥1,058

『消えた修道士』は〈修道女フィデルマ〉シリーズの長篇第7作目。
久しぶりの邦訳となる気がします。
大好きなシリーズだけに待ち望んでおりました。
間を置かずに読み始めたいと思います。
フィデルマやエイダルフとの再会が楽しみです。
『紅玉は終わりにして始まり』は時間旅行を扱ったファンタジィ小説。
ドイツ本国では大変人気のある作品だそうです。
此方もいずれ読みたいけれど,暫く積むことになるかなあ。
ファンタジィ小説も久しぶりに読んでみたい気もするのですよね。

〈2015年書籍購入覚書〉 計109冊
posted by 森山樹 at 20:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 購入記録

2015年11月21日

ライナー・レフラー『人形遣い』

〈2015年読書感想42冊目〉
ライナー・レフラー『人形遣い』


 ドイツを舞台としたミステリィ〈事件分析官アーベル&クリスト〉シリーズの第1作目。ケルンで続く猟奇的な連続殺人事件の謎にふたりの分析官が挑みます。それ程目新しい部分があるわけではないのですが,目立った欠点のない王道をいくミステリィとして存分に楽しみました人形遣いを名乗る猟奇的な殺人犯と理解がない警察組織というふたつを相手に戦いを強いられるふたりの分析官も割合に変人というのが面白い。事件そのものは大変に魅力的。警察を嘲笑うかのように犯行を繰り返す人形遣いとの息詰まる攻防が物語を起伏に富ませており,冗長さを感じさせません。真犯人の意外な正体や終盤で二転三転する展開も非常に楽しかった。なお,主人公のふたりは事件分析官であって,犯罪心理分析官ではないということが繰り返し語られます。即ち,捜査権を持った警察官が事件分析を行うことによって,実際の捜査を主導するというのがドイツの特徴とのことです。とは言え,この事件分析そのものはまだ新しい捜査方法ということもあって,従来の捜査に固執する頑迷な刑事がいるのも事実。そのあたりの間隙がまた感情の擦れ違いとなり面白さを増しています。

 主人公はマルティン・アーベルとハンナ・クリストのふたり。アーベルは実績のある老練な事件分析官であり,ハンナは非常に優秀な若手の女性事件分析官。事件分析官であること以外に共通性を持たないふたりが相容れる筈もなく,ことあるごとに対立します。しかし,そのうちにアーベルの独特の事件分析手法にハンナが心惹かれて行くという感情の動きは興味深い。或る意味では王道でもありますけれども。ただ,ふたりが接近するのがやや性急に過ぎた感は否めません。ハンナがアーベルに対して想いを抱くようになったのかということが唐突に思えました。アーベルもハンナもともに心に傷を抱いているので,同族への情ということなのかもしれませんけれども。アーベルの手法に反発するケルン刑事警察のコンラート・グランナーも悪くなかった。旧来の捜査手法を尊重し,事件分析という手法には疑念を抱いていますが,過ちは率直に認める清廉さも持ち合わせています。何よりも好悪の感はさておいて,危機に陥ったアーベルとハンナを救出する為には全力で取り組む姿勢が格好良かった。頭が固い印象はありますが,彼もまた優秀な捜査官なのでありましょう。問題は彼の部下が無能ということかなあ。リヒャルト・マースの度重なる失態がなければ,事件はもっと早くに解決していたことでありましょうから。どんなに完璧な策であっても運用する人間次第ということを思い知らされます。

 大変面白い作品でありました。重厚でありながらも,決して読み難くはなく,一気に読了してしまう魅力を備えています。如何にも海外ミステリィといった趣の作品であります。暫く離れていた海外ミステリィに回帰する契機となりそうな予感があります。このアーベルとハンナを主人公としたシリーズは既に続篇が刊行されているとのこと。早期の翻訳を楽しみにしたいものです。マルティン・アーベルとハンナ・クリストという聖書を彷彿とさせる名前に秘められた隠喩が如何なる形で示されるのかも期待します。今後の展開を待ち望みたくなる物語でありました。
posted by 森山樹 at 08:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想