2019年04月26日

京極夏彦『今昔百鬼拾遺 鬼』

〈2019年読書感想15冊目〉
京極夏彦『今昔百鬼拾遺 鬼』


〈百鬼夜行〉シリーズの番外篇にあたる新シリーズの開幕篇。
今作は主人公を中禅寺敦子と呉美由紀が務めます。
このシリーズ全体の主人公であるのかは次回作以降を読まないと分かりません。
ともあれ,このふたりの組み合わせは意外な感があって好き。
京極堂こと中禅寺夏彦や関口巽,榎木津礼二郎,木場修太郎らは全く姿を見せません。
彼らは栃木県で事件に巻き込まれているとのこと。
よって,本作は未だ刊行されない『鵼の碑』と同時期の作品と言えます。
今回の事件は「昭和の辻斬り事件」と称された猟奇事件をふたりが追うもの。
相変わらずの衒学的な雰囲気はかなり好みです。
但し,事件としてはそれ程意外性がなく寧ろ凡庸と言えるもの。
それでもなお雰囲気で楽しませる点に〈百鬼夜行〉特有の魅力を有しています。
『塗仏の宴』での失敗からか敦子に聊か翳りが見受けられるのは残念。
個人的には〈百鬼夜行〉当初の元気で快活な姿を見せて欲しかった。
片や呉美由紀の方は『絡新婦の理』で魅せた聡明さは健在で非常に良い。
事件を最終的な解決に導いたのが彼女の大演説というのも素敵でありました。
『絡新婦の理』に続いて猟奇殺人に巻き込まれるというのは不幸ではありますが。
その不幸さを払い除ける強さを彼女には感じます。
残念だったのは〈百鬼夜行〉の常連が後は鳥口くらいしか出番がなかったということ。
青木刑事らが作中で言及されたのでまだしもですが,やはり寂しい。
魅力的な登場人物を多数有するシリーズだけに次回作以降は期待したいものです。
また,凌雲閣や新撰組が事件の背景に用意されているのも個人的に好み。
こういった時代を表す事象との交差はやはり楽しいものがあります。
如何にも番外篇といった体裁で悪くはないけれど,満足度もそれ程には高くない。
本篇のような重厚で多層的な構造の作品を期待すると当てが外れます。
とは言え,シリーズの雰囲気を保った掌編としては十分に楽しい。
来月再来月と刊行される二作目三作目も期待したいと思います。
それよりも何よりもいい加減に『鵼の碑』を読みたいのですけれどね。
何が原因で刊行されないのか分かりませんが,動きだけでも提示して欲しいものです。

(講談社タイガ 2019年)

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2019年04月22日

購入記録(2019.04.22)

京極夏彦 今昔百鬼拾遺 鬼 講談社タイガ ¥745

京極夏彦の久しぶりの〈百鬼夜行〉シリーズの新作です。
と言っても,立ち位置は番外篇といった位置付けでしょうか。
これも悪くはないけれど,やはり本篇が読みたい。
『鵼の碑』はいつまで待てばいいのでしょうかね。
なお,来月再来月も続けて刊行されるみたいです。
角川文庫と新潮文庫とレーベルを変える意味が見いだせないけれども。
まあ,読めるだけ良しとしましょう。

〈2019年書籍購入覚書〉 計24冊
posted by 森山樹 at 22:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 購入記録

若竹七海『殺人鬼がもう一人』

〈2019年読書感想14冊目〉
若竹七海『殺人鬼がもう一人』


のどかな地方都市・辛夷ヶ丘を舞台とするミステリィ短篇集。
一応,女性警官の砂井三琴は全話に登場しますが,主人公とは言い難い。
最初の2篇は明確に主人公と言えるのでしょうけれども。
残りは最終話を除くとほぼ端役といった感じに止まっています。
とは言え,その不気味なと言える程の存在感は素晴らしい。
最初は単なる悪徳警官に過ぎなかった彼女が徐々に異形と化していく気がします。
或いは闇に飲み込まれていくと表現したほうがいいのかもしれません。
若竹七海作品の共通の毒気は健在。
寧ろ,これまでにない猛毒と言っても過言ではないでしょう。
登場人物にひとりも善人がいないというのが空恐ろしいです。
20数年は事件らしい事件がない辛夷ヶ丘の真の姿に気付くと本当に怖い。
収録されているのは6篇。
「ゴブリンシャークの目」と「丘の上の死神」はいつもの若竹七海作品。
主人公を含めて困った悪人ばかりですが,それでもまだ生易しい。
砂井三琴の言うところの素敵な不労所得が或る意味では素敵。
「黒い紬」と「葬儀の裏で」はどちらもかなり好きな作品。
特に「葬儀の裏で」に登場する一族の危なさがたまらないです。
誰もが信じられなくなる恐怖感が非常に良い。
「黒い紬」は結婚式の会場で起こる騒動を描いた作品。
此方は最後の落ちが秀逸でした。
生々しい女性同士の鍔迫り合いも傍から見ている分には楽しめます。
決して当事者になりたくはないけれども。
「きれいごとじゃない」と「殺人鬼がもう一人」も嫌いではない。
寧ろ,好きな部類なのですが,それでも苦手感を覚えてしまいます。
多分,きっと,それは落ちのせいかなあ。
各篇が微妙に関連しているのも流石というところです。
個人的にはかなり楽しめた作品ですが,万人にはお勧めし辛いなあ。
若竹七海の文法に耐性がないと悪意に心が傷付けられる気がします。
それを踏まえた上で自分としてはやはり若竹七海の作品が大好きです。
いつか,葉村晶と砂井三琴が共演する作品も読みたいものですね。
かなり酷いことになりそうな気がしますが。

(光文社 2019年)

タグ:若竹七海
posted by 森山樹 at 06:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想

2019年04月20日

加藤実秋『メゾン・ド・ポリス2 退職刑事とエリート警視』

〈2019年読書感想13冊目〉
加藤実秋『メゾン・ド・ポリス2 退職刑事とエリート警視』


現役女性警察官ひよりと退職刑事達の活躍を描く〈メゾン・ド・ポリス〉の第2作目。
前作から引き続く失踪したひよりの父親に纏わる謎が中心となります。
警察内部の黒い闇がなんとも不気味で質が悪い。
今回も連作短篇集の体裁をとっており,4篇が収録されています。
事件そのものは如何にも現代的なものばかりといった印象。
作者が得意とする1980年代臭はやはり微塵も感じられません。
どの事件も二転三転するものの結末は概ね予想通り。
目新しさは感じませんが王道であるが故の綺麗なまとまりは読後感を充実させてくれます。
第4話は失踪したひよりの父親を巡る事件が描かれます。
これまでに張られた伏線が丁寧に回収されており,或る意味での集大成と言えます。
副題にあるエリート警視こと間宮は意外な程に影が薄い存在でした。
警察の闇を象徴する人物ではあるのですが出番が少ないのが難点。
また,やってることが基本的に警告を与えるだけに止まっているのがね。
尤も,次回作以降でもひより達の前に姿を現すのかもしれませんが。
退職警官達の活躍ぶりは相変わらず。
藤堂の分かれた二番目の妻で鑑識官の杉岡さんは常連化しそうな気がします。
一方でバー〈ICE MOON〉は毎度のことながら立ち位置が微妙。
ナナの毎回異なる方言ネタは如何にも加藤実秋らしいところです。
第1作目に引き続き素直に楽しめるミステリィでありました。
退職刑事達の群像劇としても十分に面白いです。
問題は第1作目からの伏線が概ね解消されてしまったこと。
次回作では如何なる展開に持ち込むのか期待したいと思います。

(角川文庫 2018年)

タグ:加藤実秋
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2019年04月19日

森晶麿『心中探偵 蜜約または闇夜の解釈』

〈2019年読書感想12冊目〉
森晶麿『心中探偵 蜜約または闇夜の解釈』


〈黒猫〉シリーズの森晶麿のミステリィ長篇です。
その〈黒猫〉が端役ながらも登場するのが嬉しい。
彼の意外な一面も見ることが出来ます。
一方でその圧倒的な思考力は健在で,ほぼすべての事件の真相を見透かしています。
〈付き人〉も登場しますが,此方は本当に端役でした。
もっとも第三者による〈付き人〉の描写は割と新鮮であります。
服毒心中した相手が別人に成り代わっていたという提示された謎は面白い。
しかし,主人公の華影忍がいい感じに屑過ぎて感情移入出来ません。
感情移入するする必要性はないんだけど,終始好感を持てないというのは辛いです。
その忍を取り巻く妻の道子や担当編集の溝渕は個性が立っています。
寧ろ,此方の方にこそ魅力を感じますね。
まあ,道子は道子で常人には理解し難い感情を持っているのですが。
衒学的な要素も含んだ事件の解決は楽しかった。
或る程度の想定は出来ていたのですが,真犯人は意外性がありました。
被害者こそが最大の加害者というのはありがちですが。
ほぼ完全に真相を見抜いていた〈黒猫〉は流石というべきでしょうか。
ちょっと美味しいところを独り占めしている感はありますね。
物語は綺麗にまとまっており,ミステリィとしては十分に楽しめます。
何処か淫靡な雰囲気が漂う展開も悪くありません。
忍の覚悟のなさが最後の最後で暴露される結末も皮肉が効いていました。
〈黒猫〉シリーズの番外篇的な扱いとしても良いのでしょう。
思わず本篇との整合性を確認したくなってしまいます。

(幻冬舎文庫 2017年)

タグ:森晶麿
posted by 森山樹 at 17:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想