2019年05月08日

ジェームズ・ロリンズ『ユダの覚醒(下)』

〈2019年読書感想18冊目〉
ジェームズ・ロリンズ『ユダの覚醒(下)』〈シグマフォース〉


マルコ・ポーロと遺伝子の謎へ迫る『ユダの覚醒』の下巻です。
提示される謎は魅力的なのにまとめ方はどうにも不満が残る感じ。
世界規模の災厄がほぼ瞬時に解決してしまうことには聊か納得しかねます。
この御都合主義は前作の終幕でも強く感じましたね。
悪い意味でのシリーズの伝統となってしまうことを危惧します。
舞台が唐突にアンコール・ワットへと遷移するのもやや府会かなあ。
アンコール・ワットの遺跡が竜座と同じ配置というのは面白い。
プトレマイオス星座とカンボジアの遺跡が結びつく合理的な説明は必要ではないかしら。
元ネタが学術的に否定されているグラハム・ハンコックですからね。
やはり歴史学よりも神秘主義への傾倒を感じざるを得ません。
マルコ・ポーロとコカチン王女の物語は割と良かった。
とは言え,これはあくまで創作であるのも確かでしょう。
今作ではグレイの両親であるジャックとハリエットも事件に巻き込まれます。
夫婦の生かしたふたりの奮闘は格好良かった。
特にジャックは最終的にギルドの暗殺者をも単独で倒す強さを見せます。
一方でギルドのアメン・ナセルもデヴェシュ・パタンジャリもいまいち。
最終的に敵役にあまり魅力がないのは残念でした。
寧ろデヴェシュ・パタンジャリの側近のスリーナが非常に良かったですね。
セイチャンに関しては今後の展開を見ないと何とも言えません。
良くも悪くも〈シグマフォース〉と言った感じの作品ではあります。
事件の発端となったスーザン・チュニスの扱いはあれでよかったのかしら。
いろいろと釈然としないものが残ります。
生存を暗示させるモンクの義手の扱いも同様。
オーストラリアで消息を絶った彼がアメリカにある義手に救難信号を送れるのかな。
ついでに言うならば人食いイカって本当にいるのですかね。
人間をイカが捕食する合理性をあまり感じないのですが。
娯楽小説としては普通に楽しめるのは事実。
但し,歴史と科学の融合というお題目を掲げるには疑問が残ってしまいます。
それでも次作を読んでみようという気になるのも確かではありますが。

(竹書房文庫 2012年)

posted by 森山樹 at 05:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想

2019年05月07日

ジェームズ・ロリンズ『ユダの覚醒(上)』

〈2019年読書感想17冊目〉
ジェームズ・ロリンズ『ユダの覚醒(上)』〈シグマフォース〉


科学と歴史の融合を掲げるアクション小説〈シグマフォース〉の第3作目。
今回の題材はマルコ・ポーロと人食いバクテリアということでいいのかな。
過去作以上に科学要素と歴史要素の乖離が激しい気がします。
特にマルコ・ポーロと人食いバクテリアを結びつける必然性に欠けるのですよね。
他にも天使の文字といった完全な神秘主義要素も扱われますが。
第1作目で登場したセイチャンやヴィゴー・ヴェローナ等の再登場は嬉しかった。
実際に『マギの聖骨』が今作を引き起こす遠因となっています。
その意味ではシグマフォース側の失策と言っても言い過ぎではないのかも。
例によって,グレイ,ペインター,リサ&モンクの3つの視点で語られます。
目まぐるしく細切れに舞台が把握し辛いのは難点。
このあたりも含めてまさにアクション映画を小説で読んでいる感があります。
また,グレイの両親が事件に巻き込まれるのも今作の特徴と言えるでしょう。
相変わらず,危機に続く危機で逆に緊張感を失っているのは残念。
一方で漸くギルドがシグマフォースの仇敵として直接対峙をするのは嬉しいです。
尤も,セイチャンは例によってというべきか,あっさりとギルドを裏切るわけですが。
アメン・ナセルとデヴェシュ・パタンジャリという今作の敵は割と楽しい。
特にデヴェシュ・パタンジャリの狂気の科学者感がたまりません。
彼に従うスリーナも意外な個性があって気になります。
そして,グレイたちと行動を共にするコワルスキの脳筋ぶりが良い。
なんというか,癒しの立ち位置として貴重な存在であります。
様々な形で各陣営が危機を迎えながら下巻へという展開もいつも通り。
此処から如何に事態を打開するのかということを楽しみたいと思います。
しかし,狂気を孕んだアカガニの集団には襲われたくないものですね。
海賊たちには同情せざるを得ません。

(竹書房文庫 2012年)

posted by 森山樹 at 06:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想

2019年05月06日

加藤実秋『メゾン・ド・ポリス3 退職刑事とテロリスト』 

〈2019年読書感想16冊目〉
加藤実秋『メゾン・ド・ポリス3 退職刑事とテロリスト』


〈メゾン・ド・ポリス〉シリーズの第3作目にして初の長篇となります。
扱われる事件も爆弾によるテロ事件ということでいつもよりも大掛かりなもの。
と言っても,雰囲気はまるで変らないので,軽妙に楽しむことが出来ます。
因みに過去作品との関連性は全くないので単品で十分に面白い筈。
今回は迫田さんの別れた家族が物語に大きく関わってくることになります。
そして,メゾン・ド・ポリスのオーナーである伊達さんの素性が明らかに。
かなりの高官とは思っていましたが,まさか副総監とは流石に予想外。
そりゃ警視庁内で十分に顔が効くのも分かるというものです。
勿論,夏目さんと藤堂さんもそれぞれの役割を存分に果たしてくれます。
このあたりの協力しての捜査がこのシリーズの魅力と言えるでしょう。
事件とは関係ないところで高平さんが目立つのもいつも通りかな。
新たに退職間近の刑事である梅崎さんがひよりの相棒として登場します。
女性蔑視の言動が散見されますが,その真意は割と悲しい。
今後も何処かで姿を見せる予感があります。
また,特に此処まで活躍のなかった原田刑事が男を見せるのも熱い展開。
彼女である美玲とのやり取りも微笑ましいものがあります。
これまでは個性を感じなかっただけに焦点が当てられるのは意外でしたが。
事件そのものは順当と言えば順当。
解決の一端を担ったブランド名に隠された謎は安直過ぎるきらいがありました。
まあ,トリックの妙で読ませる作品ではないのでそんなに気にはなりません。
個人的には長篇よりも短篇のほうが好みなので,今後の方向性が気になります。
未だ吐露しない夏目が抱えるものを含めて次作を待ち望みたいと思います。

(角川文庫 2019年)

タグ:加藤実秋
posted by 森山樹 at 09:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想

2019年05月05日

購入記録(2019.05.05)

ジェームズ・ロリンズ ロマの血脈(上) 竹書房文庫 ¥700
ジェームズ・ロリンズ ロマの血脈(下) 竹書房文庫 ¥648

『ユダの覚醒』を読了したので,〈シグマフォース〉の続きを購入。
巻を追うごとに神秘主義方面に話が向かうのは気のせいか。
歴史と科学の融合というよりも悪魔合体ぽくなっている気がします。
それはそれで悪くはないんだけど。
世界規模の危機が安易に終息すると少し萎えてしまいますねえ。
とりあえずは読み続けてみるつもりですけれど。
特に今回購入した巻は大好きなロマが扱われるのが楽しみ。
如何なる方向への解釈が試みられるのか不安半分で期待します。

〈2019年書籍購入覚書〉 計28冊
posted by 森山樹 at 19:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 購入記録

2019年4月読書記録

2019年4月に読んだ本は以下の通り。
峰守ひろかず 『妖怪解析官・神代宇路子の追跡 人魚は嘘を云うものだ 』
加藤実秋 『メゾン・ド・ポリス 退職刑事のシェアハウス』
森晶麿 『心中探偵 蜜約または闇夜の解釈』
加藤実秋 『メゾン・ド・ポリス(2)退職刑事とエリート警視』
若竹七海 『殺人鬼がもう一人』
京極夏彦 『古今百鬼拾遺 鬼』
加藤実秋 『メゾン・ド・ポリス(3)退職刑事とテロリスト』

4月の読了は7冊。
加藤実秋の〈メゾン・ド・ポリス〉シリーズを最新作まで読了。
如何にも加藤実秋らしい作品で割合に好み。
軽快なミステリィを楽しむことが出来ました。
まだまだ続きはありそうなので今後にも期待したいところです。
峰守ひろかずの新作はいつも通りの妖怪もの。
“人魚”を題材に様々な伝承を組み合わせる手法は相変わらず素敵。
巻数表記はありませんが,好評ならばシリーズ化ということでしょうか。
勿論,本作で完結していますが,伏線も張られているので楽しみ。
若竹七海の『殺人鬼がもう一人』は最高に面白かった。
まさに真骨頂ともいうべき猛毒に満たされた連作短篇集になっています。
それでいて読後感が存外には悪くないのが不思議。
最終話の解釈は如何様にも取れましょうが。
いつか,葉村晶との共演も期待したいものです。
『心中探偵 蜜約または闇夜の解釈』はこんなものかなという印象。
悪くはありませんが,絶賛する程ではない感じですね。
黒猫と付き人が登場した点だけは大満足ですが。
主人公が好きになれなかったのが痛かったように思います。
posted by 森山樹 at 07:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書記録