2019年06月23日

ジェームズ・ベッカー『皇帝ネロの密使(上)』

〈2019年読書感想28冊目〉
ジェームズ・ベッカー『皇帝ネロの密使(上)』


古い石板に刻まれた謎の言葉を巡る宗教ミステリィ小説の上巻です。
〈クリス・ブロンソンの黙示録〉シリーズの第1冊目ということになります。
その名の通り主人公は英国刑事のクリス・ブロンソン。
愛する女性と親友が巻き込まれた事件の真相を追って活躍することになります。
まだ上巻ということで評価は勿論不可能ですが,現段階では可もなく不可もなく。
バチカンとコーザ・ノストラとの関わり合い等の要素は楽しいです。
コーザ・ノストラが何故この事件に深く関わるのかは不明ですけれども。
単に過去からの繋がりというだけではなさそうな気がしますね。
少なくとも石板に関わる人物を全て抹消するだけの理由が見出せません。
インターネット監視システムは妙な現実性があって不気味ではあります。
実際に運用されていないこともないのでしょうね。
問題はブロンソンの親友パターソン邸から見つかった謎の石板。
この石板はキリスト教の根本に大きく関わる存在とされているのが楽しみ。
如何に外連味に溢れた説へと誘導してくれるのか期待してしまいます。
冒頭の皇帝ネロ時代の動向がどのように関わってくるのかも興味深いところです。
主人公であるブロンソンは頭も切れて行動力もあり格好いい。
少なくとも打つ手が殆ど良い方向へ出ているというのは楽しいです。
彼を追うコーザ・ノストラのマンディーノもなかなか有能で魅力的。
このふたりの死力を尽くした戦いが見物と考えていいのかな。
ブロンソンと別れた妻アンジェラとの関係も焦点になってきそうですね。
とは言え,やはり一番重要なのは石板に記されたキリスト教成立の秘密。
これを如何に解き明かすかで本作の評価は左右されることでありましょう。
過度な期待は禁物ではありますが,それでも楽しみにしたいと思います。

(竹書房文庫 2015年)

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2019年06月17日

高井忍『蜃気楼の王国』

〈2019年読書感想27冊目〉
高井忍『蜃気楼の王国』


稗史を題材とした5篇が収録された連作歴史ミステリィ短篇集です。
5篇はそれぞれに独立しているのですが,同一の世界観上にあります。
ごく薄いながらもそれぞれに繋がりがあるのが楽しい。
一部の逸話や登場人物は他篇にも登場してきますしね。
扱われる主題は琉球王国が3篇,源義経が1篇に雨月物語が1篇。
琉球王国の始祖という伝説が残る源為朝の物語が中心と言えるかもしれません。
歴史に名を遺す人物たちが主役を務めるというのも大変に嬉しい。
特に遠山の金さんこと遠山景元は2篇で主要な役割を務めることになります。
個人的にはその金さんが登場する「槐説弓張月」が一等好きかなあ。
金さんと謎の老人との語らいだけで進行するお話となります。
正史と稗史に係る作者の姿勢が露骨に表れるのが非常に良い。
歴史は歴史,創作は創作という,自分の趣向とも合致するものがあります。
謎の老人の正体は誤導要素もありますが,割と容易に推定することが出来ましょう。
表題作「蜃気楼の王国」もそうですが,細かな史実が組み込まれるのが素敵です。
「蜃気楼の王国」で扱われる米水兵殺人事件は実際にあった事件です。
これを鮮やかに創作として仕立て上げる作者の手腕が素晴らしい。
題名である“蜃気楼の王国”の真の正体も納得出来るものがありました。
「雨月物語だみことば」を除く4篇は多かれ少なかれ関係があるのも楽しい。
源義経と源為朝というふたりの源氏の英雄に係る伝承が主体となっています。
それが庶民の願望等ではなく,為政者による作為という解釈も良い。
時代背景からしても相応に納得出来る理由が描かれます。
稗史の真偽ではなく,稗史の存在そのものが物語の主体と言えましょう。
まさに歴史ミステリィの本質に或る意味で真っ向から疑念を呈している作品です。
逆を言えば,歴史という学問への真摯な尊重とも言えるのでしょうが。
様々な意味で歴史への想いを考えさせられる作品でした。
勿論,単純にミステリィとしても十分以上に楽しめる作品ばかりであります。
改めて歴史に対する作者の姿勢を痛感させられたような気がします。
そして,その稗史を理由する者への断罪が爽やかでありました。

(光文社文庫 2016年)

タグ:高井忍
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2019年06月14日

購入記録(2019.06.14)

森晶麿 ホームレス・ホームズの優雅な0円推理 富士見L文庫 ¥734
周防柳 蘇我の娘の古事記 時代小説文庫 ¥734

『ホームレス・ホームズの優雅な0円推理』は森晶麿の新作ということで購入。
〈シャーロック・ホームズ〉からは名前を借りただけですかね。
まあ,森晶麿なら一定以上は面白いだろうという信頼感があります。
『蘇我の娘の古事記』は題名に惹かれての購入。
ハルキ事務所の時代小説文庫は初めて購入した気がします。
期待通りに面白いと嬉しいのですけれども。

〈2019年書籍購入覚書〉 計45冊
posted by 森山樹 at 17:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 購入記録

2019年06月10日

購入記録(2019.06.10)

高井忍 蜃気楼の王国 光文社文庫 ¥842
久賀理世 ふりむけばそこにいる 奇譚蒐集家小泉八雲 講談社タイガ ¥810

『蜃気楼の王国』は探していた一冊。
高井忍らしいいつも通りの歴史ミステリィに仕上がっている筈。
偽史を否定するからこその新説を楽しみにします。
『ふりむけばそこにいる 奇譚蒐集家小泉八雲』は気になっていた作品。
小泉八雲の若かりし頃が主人公ということでいいのかな。
講談社タイガの立ち位置がいまいちよく分かりませんが期待はします。
大人向けのライトノベルといった感じなのかしらね。

〈2019年書籍購入覚書〉 計43冊
posted by 森山樹 at 22:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 購入記録

2019年06月09日

北原尚彦『ホームズ連盟の冒険』

〈2019年読書感想26冊目〉
北原尚彦『ホームズ連盟の冒険』


『ホームズ連盟の事件簿』に続くホームズ物のパスティーシュの第2作目。
今回もホームズを取り巻く人物たちを主人公に据えた短篇集となっています。
彼処に正典に対する愛着や経緯が垣間見えるのが本当に素敵。
全部で6篇が収録されていますが,どれも大変お気に入り。
巻末の作者による解題を読むと更に面白さが増すのが良いです。
「犯罪王の誕生」と「R夫人暗殺計画」はモリアーティとモランが主人公。
どちらも悪漢小説としての楽しみ方が出来ます。
モリアーティが同じ名前の三兄弟という設定が盛り込まれているのが良い。
ただ,モリアーティが犯罪界へ身を投じるに至る過程は少し弱いかなあ。
「R夫人暗殺計画」はモラン大佐の魅力が爆発と言った感じ。
フォン・ヘルダーの設定も面白かったです。
彼の娘が正典に記されていたかは記憶がないなあ。
あそこまで詳細に描かれているので今後に何らかの形で生かすのかしら。
メアリー・モースタンが主人公の「蒼ざめた双子の少女」は後味が良くて好き。
まあ,ミステリィとしては割と安直な気がしますけれどね。
「アメリカからの依頼人」は今巻で一番好きかもしれません。
意外性のある所を突いてきたなあという印象があります。
「ディオゲネス・クラブ最大の危機」の主人公はマイクロフト・ホームズ。
その卓越した知性は流石ですが,寧ろ変装の腕前が凄い。
折々に体を動かすことへの愚痴が入るのも面白い。
最後の「ワトソンになりそこねた男」はスタンフォードが主人公を務めます。
ホームズとワトソンが同居する契機となる逸話が楽しい。
少年給仕ビリーやスタンフォードといった脇役を描くのが絶妙過ぎます。
モリアーティやモラン,マイクロフトは当たり前過ぎますからね。
ホームズ物のパスティーシュとしても期待以上の作品です。
細かな設定を含めて〈シャーロック・ホームズ〉への愛に満ちた短篇集でした。
改めて前作を読み直したくなります。
更なる続篇が描かれることを期待せざるを得ません。
「回想」「帰還」「最後の挨拶」と3冊はまだ書ける余地があるわけですからね。
或いは「叡智」を加えても良いのかもしれませんが。

(祥伝社文庫 2019年)

タグ:北原尚彦
posted by 森山樹 at 21:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想