2019年06月05日

高井忍『京都東山 美術館と夜のアート』

〈2019年読書感想25冊目〉
高井忍『京都東山 美術館と夜のアート』


京都市にある美術館を舞台としたミステリィ短篇集です。
4篇が収録されていますが,どれも大変に好み。
歴史系ミステリィを得意とする高井忍だけに謎の絵師の正体に迫る作品もあります。
まあ,例によって,あくまでも創作であるという姿勢は変わらないのでしょうが。
逆にこういう部分に作者の真摯な態度が見え受けて好感があります。
というわけで,一番のお気に入りは「スウィフティー画談」ですね。
あの東洲斎写楽以上に存在が不明の翠釜亭という浮世絵師が扱われます。
そこから20世紀初頭のポーランド画家へと物語が展開するのが大好き。
まさに美術ミステリィの真骨頂と言ってもいいでしょう。
逆に東洲斎写楽については全く謎がないと断言しているのも見事。
その論理展開には破綻がなく,十分に説得力を有しています。
残る3篇はいずれも美術館ならではの〈日常の謎〉といった感じかなあ。
どれも事件性は薄いのですが,ミステリィとして十分に楽しめます。
そして何と言っても登場する人物たちが誰もみな魅力的。
特にフロアマネージャーの天城さんの卓越した推理力が格好いい。
渚,伊佐良井さん,野澤さんといった面々も個性が立っています。
主人公の静河も美術研究者を志願しながら警備員をするという変わり種。
美術館での警備員というのは意外に悪くない職業なのかもしれません。
いざ,ことが起きるとかなり大変そうではありますが。
そして,舞台となるのが京都市の市立美術館という設定が良い。
何度も実際に足を運んだ場所ということで愛着を持ってしまいます。
京都市美術館ではなく,京都市の市立美術館というのも作者の想いを感じますね。
或いはこの美術館こそが本作の主人公といってよいのかもしれません。
相変わらず,高井忍の作品はお気に入り。
是非ともこの登場人物たちでの続篇を期待したいものであります。
寡作な作家なので次がいつになるかは分からないですけれども。
その日を待ち望んでいます。

(創元推理文庫 2019年)

タグ:高井忍
posted by 森山樹 at 06:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想