2019年07月20日

三津田信三『魔偶の如き齎すもの』

〈2019年読書感想35冊目〉
三津田信三『魔偶の如き齎すもの』


推理小説家にして探偵の刀城言耶を主人公に据えるシリーズの新作です。
今回はいつもの長篇ではなく,中短篇集という体裁を採っています。
刀城言耶以外に複数篇に登場する人物もいますが,各篇は独立しています。
いずれも戦後直後の如何にも昭和の雰囲気が漂う作品で好み。
謎と怪奇の不均衡はやや気になりますが,それも魅力のうちでありましょう。
とは言え,やはり本シリーズは長篇でこそという想いが残りますね。
どの作品も面白いのですが,物足りなさを感じてしまいます。
殆どの謎が解明された後に一点だけ残る不合理という長篇の楽しさが少ないのですよね。
寧ろ,怪奇性が全面的に押し出されてしまっている気がします。
それはそれで悪いわけでは決してないのですけれども。
その意味では合理と不合理の均衡が取れていた「巫死の如き甦るもの」が一番好みかな。
後味の悪い結末がなんとも言えない余韻となります。
「妖服の如き切るもの」も如何にも〈刀城言耶〉シリーズらしい作品です。
今作で登場する小間井刑事が意外に個性的でなかなか楽しい。
「魔偶の如き齎すもの」は祖父江偲が中心となる中篇。
メタ的な意味合いからも楽しめました。
シリーズの読者には怪訝に思われる点がきちんと伏線になっています。
この作品は怪奇色よりも普通の推理小説然としているのも割と好み。
刀城言耶独特の試行錯誤の末に真実へ辿り着く推理も存分に堪能出来ます。
一方で「獣家の如き吸うもの」は怪奇色に満ちた短篇。
雰囲気は抜群に良いのですが,物語としては浅いので不満が残ります。
所謂,安楽椅子探偵的な作品なので危機感が薄いのかもしれません。
久しぶりの〈刀城言耶〉シリーズということで楽しめました。
但し,やはり長篇の異常な程の満足度に比べると物足りません。
比較するべきではないのかもしれないけれども。
作中で過去作に触れた表現が多かったので,改めてシリーズを読み返したくなりました。
新たな長篇が発表されるまでに少しずつ再読を進めていきたいと思います。

(講談社 2019年)

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posted by 森山樹 at 07:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想