2015年02月19日

五代ゆう『グイン・サーガ(135)紅の凶星』

〈2015年読書感想4冊目〉
五代ゆう『グイン・サーガ(135)紅の凶星』


 五代ゆうと宵野ゆめによって書き綴られる〈グイン・サーガ〉正篇の第135巻。鮮血に染まるイシュトヴァーンの不穏な雰囲気が今巻の内容を如実に物語っています。栗本薫が語り手であった頃,いつかは訪れるだろうと思いながら,遂に訪れなかったその時がこのような形で来るとは想像も出来ませんでした。何を書いても本篇のネタバレとなってしまうのが辛いところではありますが,彼が最後の一線を踏み越えてしまう契機となってしまうことに間違いはありません。そして,ドールの身許から蘇ったあの人物に傾倒を深め,と言うよりも完全に依存してしまうことになるのでありましょう。アキレウス大帝の崩御と売国妃シルヴィアに悩まされるケイロニア,竜頭兵に蹂躙されたパロ,そして国の支柱を失ったゴーラと中原の国家の受難と混迷は解決の糸口を見出せません。

 群像劇としての側面が強調されているのが五代ゆうの手による〈グイン・サーガ〉の特徴であるように感じますが,今巻もヤガを舞台としたブランの冒険,ヴァレリウスとリギア,マリウスのパロからの逃亡劇,イシュトヴァーンとカメロンの対峙,スカールとスーティの黄昏の国の旅と盛りだくさんとなっています。その内容の濃厚さに酔ってしまうくらい。全盛期の栗本薫を彷彿とさせる感さえもあります。そして,それぞれの物語が実に興味深く面白いのがたまりません。ヴァレリウスの弟子となる赤毛の少女アッシャやミロクの大導師カン・レイゼンモンロンなど新たな登場人物も自然に〈グイン・サーガ〉の世界に溶け込んでいるように思います。勿論,ヴァレリウスやスカール,マリウスと言った主要人物の個性もきちんと継承されているのが嬉しい。そして,更にはレムスや“彼女”といった久しぶりに登場する懐かしい人物の姿に胸がいっぱいになりました。特に“彼女”には心が震えざるを得ません。栗本薫が初期に撒いた伏線をきちんと意外な形で回収する五代ゆうの手腕が素晴らしい。〈グイン・サーガ〉の続きを書くのが,この方々で良かったと心底から感謝します。

 前述のように中原の混迷はその深度を増す一方。この暗闇を払拭する爽快な展開はなかなか望めそうにありません。しかし,いつかは光差す時が訪れる筈。その時を夢に見ながら,〈グイン・サーガ〉を読み続けていきたいと思います。栗本薫が予定していた展開とはまるで異なるかもしれませんが,それは今更詮無きことでありましょう。五代ゆうと宵野ゆめによる〈グイン・サーガ〉を綴っていけば,それでよいと思っています。少なくとも現段階ではどちらも十分に満足のいく物語であることに間違いありません。それぞれの物語の摺合せという点ではいささかの不安が残ることもまた確かではありますけれども。既に予告されている宵野ゆめによる次巻を心待ちにしたいと思います。
posted by 森山樹 at 22:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想
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