2015年05月31日

笹本祐一『ARIEL SS 地球篇』

〈2015年読書感想10冊目〉
笹本祐一『ARIEL SS 地球篇』


 〈ARIEL〉番外篇シリーズを集めた短篇集の第2集。題名通りに地球人側を主人公とした4篇が収録されています。いずれも本篇よりも過去の時間軸ということでエリアル開発の裏面が描かれているのが興味深い。何処までが事前の設定としてあったのかは不明ですが,どの作品も非常に〈ARIEL〉らしい説得力のある技術開発の物語に仕上がっています。何よりも,エリアル開発史ということで本篇以上に岸田博士や天本教授の出番が多いのが嬉しい。このふたりの天才性を存分に堪能することが出来ます。また,美亜や絢,和美らが如何なる経緯を経て,エリアルに搭乗することになったのかが明かされたのも興味深い。特に他のふたりよりも搭乗者としての力量には劣ると感じていた絢が何故選ばれたのかという理由が面白かったです。惜しむらくは和美の友人の由貴とエミの出番がなかったということ。本篇開始より以前ということで仕方のない部分はあるのですが,或る意味で本篇では一番化けた登場人物である由貴の姿は見たかったように思います。

 収録されているのは美亜の「初めて歩いた日」,絢の「電子頭脳の騙し方教えます」,和美の「夢見る機械人形」に,若き日の岸田博士と天本教授の冒険譚「昭和一五年のからくり天狗」を加えた4篇。物語としては圧倒的に「昭和一五年のからくり天狗」が面白い。東北奥地で連続する神隠し事件の意外な真相が楽しいです。SCEBAIの両巨頭は若き日からそれ程変わっていないのだなあということがよく分かります。欲を言えば,おばばこと羽那らいてうの活躍ももっと楽しみたかった。また,岸田博士の愛妻でエリアルの外見上のモデルとなったあゆみにも触れて欲しかったところであります。この事件が後の本篇に繋がるという構成は王道ですが,番外篇としては望むところでありましょう。残る3篇はどれもお気に入りなのですが,特に「夢見る機械人形」が好み。エリアルの動作制御実験としてケーキ作りを提案する和美の思考の柔軟性が素晴らしい。それを一笑に付すことなく実際に行う岸田博士も流石と思わせます。何よりも和美の操縦を参考にケーキ作りのシミュレーションをするエリアルが可愛過ぎます。「初めて歩いた日」と「電子頭脳の騙し方教えます」からも〈ARIEL〉の真の主人公はエリアルと岸田博士と思ってしまいます。

 どの作品も〈ARIEL〉らしさに満ちた素敵な作品でありました。地球人側だけでも宇宙人側だけでも物語がきちんと成立するのが素晴らしいです。岸田博士の限りなく御都合主義に近い,インチキめいた天才性を存分に味わうことが出来ました。美亜,絢,和美の三人娘もやはり大変魅力的。また,〈ARIEL〉本篇を再読したくなってきます。あの予想外の結末から続く物語にいつか出逢える日を待ち望んで止みません。如何なる形でも良いので,新たな〈ARIEL〉の物語を綴って欲しいものであります。勿論,それはSCEBAI三巨頭の語られざる若き日の冒険譚でも全く問題なのですけれども。
タグ:笹本祐一
posted by 森山樹 at 13:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想
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