2015年10月27日

葉山透『0能者ミナト(2)』

〈2015年読書感想35冊目〉
葉山透『0能者ミナト(2)』


 理解と分析を駆使し,科学の力をもって怪異と立ち向かう零能者の活躍を描く〈0能者ミナト〉の第2巻です。2篇が収録されていた前巻とは異なり,今回は長篇となっています。対するは前巻の末の閑話「告」で予告されていた鏖なる怪異。その名に相応しい圧倒的な存在感が素晴らしいです。窒息死や突然の爆発,或いは遠くの風景を映し出すなど,一見同一の怪異の仕業とは思えない事象が一点に収束する展開がたまりません。全ての謎が解き明かされる爽快感が素敵。必ずしも全てに納得がいくわけではありませんし,付会な部分があるのも事実。また,その謎を解き明かす契機となった,沙耶が巻き込まれた航空機の騒動もやや偶然に過ぎる気がします。それでもなお,存分に楽しめるだけの面白さを有しているのが素晴らしい。何よりも,鏖の正体が実際に伝承に残る怪異であり,その意外な正体との結び付きだけで満足するものを感じてしまいました。鏖の最期があまりにも切なかったことも余韻が残ります。

 相変わらず皮肉屋で毒舌家の九条湊が楽しい。その武器である理解力と分析力,それらを源とした発想力は見事の一言。周囲の人間にとっては災厄以外の何物でもありませんが,それでもなお沙耶やユウキ,或いは理彩子や孝元らが取り巻くだけの魅力を有しているのも事実であります。尤も,今回はユウキや孝元らが所属する総本山とは敵対し,中盤は捕らわれの身となってしまいます。それでも,沙耶やユウキを使って情報収集に努め,その中から真実を的確に拾い出す湊の能力は存分に発揮されていました。沙耶とユウキもそれぞれの立場,それぞれの能力に応じて,活躍の場が与えられているのは嬉しい。とは言え,美味しいところはやはり湊が全て持って行ってしまうのですけれども。沙耶もユウキも御蔭神道と総本山にそれぞれ所属する身ということもあり,怪異に対して湊の如く非常識な発想が出来かねるという部分は多分にあるように思います。湊は一見捻くれて歪んで曲がった思考にも思えるのですが,その実は得られた情報を素直に受け止めているのに過ぎないのですよね。常識というものが如何に偏見と紙一重であるかということを痛感します。また,今巻では総本山の源覚や科学者の堅剛猛雄といった人物が登場しますが,彼らは今後も折に触れて姿を見せることになりそう。殊に堅剛猛雄はその立ち位置から湊にとっては有力な協力者としての活躍が期待されます。源覚は総本山の一員として今後も敵対する可能性はありましょう。いずれにせよ,再登場の時が楽しみであります。

 不満がないわけではありませんが,それを上回る楽しさに満ちています。特に奇想と言ってもいい鏖の正体の種明かしは本当に素晴らしいものがありました。これだけで満足であります。また,今巻でも最後に閑話が掲載されているのが嬉しい。尤も,今回は前巻とは異なり,次回への予告というか布石はありませんでしたけれども。理彩子や孝元との親しい関係が描かれるという意味では楽しい余談と言えるかもしれません。湊に毒されている理彩子とふたりを見守る孝元と言った図式は興味深いです。いずれにせよ,前巻に引き続き自分好みの作品でありました。今後も着実に既刊を読み続けて行きたいものです。
タグ:葉山透
posted by 森山樹 at 23:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想
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