2015年10月29日

五代ゆう『グイン・サーガ(137)廃都の女王』

〈2015年読書感想36冊目〉
五代ゆう『グイン・サーガ(137)廃都の女王』


 新たな語り手を得て紡がれ続ける〈グイン・サーガ〉の第137巻です。今巻は作者が五代ゆうということでスカールやヴァレリウスらの動向が描かれます。現段階では宵野ゆめとの棲み分けは出来ているのですが,物語がやがて集束し始めるときに齟齬が生じないのかは気になるところ。特にどちらも独自の登場人物が活躍を見せ始めているだけに楽しみでもあり,不安でもあります。それもまた或いは神話や伝説の常套と言えば,それまでなのでありますけれども。相変わらず,栗本薫の遺した設定を丹念に拾い上げ,物語に巧みに織り込む,五代ゆうと宵野ゆめの手法は素直に好み。物語の進展がそれなりに早いこともあって,全く飽きることなく,寧ろ期待感が煽られ続けます。このふたりによって〈グイン・サーガ〉が紡がれることに改めて感謝の念を強くしています。もう少し刊行頻度が速いと嬉しいけれど,それは仕方がないところでありましょう。栗本薫の執筆速度の異常な速さに今更ながら驚嘆します。

 今巻は大半がスカールの冒険に費やされていますが,その舞台が外伝である『フェラーラの魔女』の舞台であった魔都フェラーラというのが懐かしい。嘗て,グインが訪れたこの街をスカールがザザやウーラと共に訪れることになるというのは因縁めいたものを感じます。但し,その魔都フェラーラは繁栄を失い,キタイの竜王ヤンダル・ゾックの軍勢により蹂躙され荒廃しているのが悲しい。女王リリト・デアも最早死の淵に立っています。この魔都フェラーラに眠る猫頭の女神アウラ・シャーとスカールとの邂逅は非常に面白かった。幾つか新たになった事実もあり,世界の根幹の謎へのひとつの手掛かりとなりそうな物語でありました。ユーライカの瑠璃に続いて登場した,約束された三つの宝石のひとつであるミラルカの琥珀が今後果たす役割も楽しみです。勿論,ナディーンやリアーヌらの再登場も嬉しかった。最早,登場する可能性はなきに等しいのでしょうが,人間と妖魔の懸け橋として幸せになって欲しいと思います。いつか,人間と妖魔が共存する魔都フェラーラが再興することを願ってやみません。また,後半部分ではヴァレリウスとその弟子アッシャの物語が描かれます。竜頭兵への憎しみから魔力を暴走させてしまったアッシャの逡巡と苦悩が辛い。それでもなおヴァレリウスの弟子として魔道士となる道を選んだアッシャの前には更に過酷に運命が待ち受けているのでしょう。そのアッシャの救いとなったのがマリウスというのがたまりません。長い年月を経ても未だにミアイル公子への悔恨を忘れないマリウスが切ないです。師として見せるヴァレリウスの姿も格好良かった。リギアも含めて今巻はパロの生き残りである三人の印象が非常に強いものがありました。未だにヴァレリウスにはリギアと結ばれて欲しいという想いはあるのですけれども。なお,ミロクの都ヤガでのブランの物語は僅かに触れられていましたが,これは次巻への楽しみにします。ソラ・ウィンとの珍道中が面白そうです。

 期待通りに面白さを持続させる,というよりも,更に面白さを増している印象があります。栗本薫から継承した〈グイン・サーガ〉の世界を掌中に収めつつあるということなのかもしれません。五代ゆう側におけるアッシャと宵野ゆめ側におけるアウロラというふたりの少女の今後の活躍も期待したいものです。一方でイシュトヴァーンやリンダ,更には復活を遂げたあの方の今後も気になるところ。レムスもこのままでは終わらないでしょう。中原を吹き荒れる嵐が如何なる方向へと向かうのか楽しみにしています。
posted by 森山樹 at 07:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/166699453
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック