2015年11月08日

葉山透『0能者ミナト(3)』

〈2015年読書感想38冊目〉
葉山透『0能者ミナト(3)』


 知性と理性をもって怪異と対峙する零能者の活躍を描いた〈0能者ミナト〉の第3巻。結果的に長篇となった前巻とは異なり,それぞれに独立した2篇が収録されています。巻末のお楽しみである閑話も勿論健在というのが嬉しい。特に「夢」のほうでは山神沙耶自身が怪異の被害に遭うということで危機感をこれまで以上に感じられます。相変わらず,辛辣で毒舌な九条湊ではありますが,沙耶やユウキ,或いは理彩子や孝元ら周囲の人間に対しては言葉はともかく行動は割合まともに思えます。それがはっきりと分かるのが「蘇」で見せるユウキと沙耶に対する配慮。解決に結び付く重要な情報を持ち帰ったユウキは結果的に事件に関わる形となりましたが,それがなければ沙耶同様に排除されていた筈。このあたりに表には出さない湊の優しさを垣間見る事出来ます。単純に性格が悪いだけの人間であれば如何に怪異に対処する能力が高くても理彩子や孝元が友誼を結ぶ理由はありません。気になるのは,湊が最初からこういう性格だったのか,或いは性格が変わる契機となった出来事があったのかということ。未だに過去は明かされていないので今後に期待したい部分であります。

 「蘇」は死なない死刑囚を殺して欲しいという依頼が面白い。但し,犯罪者とは言え,他者を殺すことを依頼されるということにはやや抵抗を感じます。そのことに湊が逡巡しないというのが不思議に思えましたが,一応最後の場面で或る程度の納得は出来たのかなと思います。明確に謳われているわけではないのですけれどね。死なない死刑囚の不死の秘密は興味深かった。祝福と呪詛は紙一重の存在であるということを実感します。そして,死なない死刑囚を殺す為の手法はほぼ予想通り。また,この作品の世界観には少なくとも仏の加護があることが判明しました。仏が如何なる立ち位置なのかは不明でありますけれども。このあたりは今後整合性が取れるのかやや不安ではあります。なお,この物語で沙耶とユウキに見せた湊の不器用な配慮が印象的でした。どちらもそのことが分かっているというのが猶更に素敵です。「夢」は夢魔に憑かれた沙耶を救う物語。沙耶の受難が楽しいというのは不謹慎でありましょうか。あまりに純粋すぎるが故に却って夢魔からの影響が大きいというのは皮肉であります。夢魔を対峙する為に湊が持ち出した手法は如何にも彼らしいの一言。更に夢魔を封印する道具は流石に意外性がありました。夢が電気信号であるということを逆手に取るというのは湊の本領発揮というべきでありましょう。他に幾らでも選択肢があるというのに,敢えてあの道具を用いるあたりも彼らしさが出ていて楽しいです。沙耶を救う為に最大限の尽力を姿こそが本質というべきなのでしょうけれどもね。この両面性が湊の魅力に思えます。

 十分に満足出来ました。但し,2巻で描かれた長篇の方が満足度は高かった。恐らく,二転三転する事態というのが短篇若しくは中篇では不足せざるを得ないのが原因であります。その分,短篇や中篇の方が綺麗にまとまっているともいえるのですけれどもね。個人的にはこのシリーズは長篇に方にこそ本領を感じます。この時点では1作しか長篇はないので即断するのは危険かもしれませんけれども。閑話によると次巻で描かれるのは豪華客船を舞台とした事件の模様。海を舞台とする怪異もさまざまに有りますので,どれが扱われるのか大いに期待したいと思います。いずれにせよ,一筋縄では行かない筈。閉鎖空間の中での湊と沙耶,ユウキの活躍が楽しみです。
タグ:葉山透
posted by 森山樹 at 18:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想
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