2015年11月15日

葉山透『0能者ミナト(4)』

〈2015年読書感想40冊目〉
葉山透『0能者ミナト(4)』


 〈0能者ミナト〉の第4巻。第2巻に続いて,長篇となっています。偶数巻は長篇で行くということなのでしょうか。単なる偶然という可能性も多分にありますけれども。今巻の舞台は前巻の閑話で予告があったように洋上の豪華客船が舞台となります。これまでない閉鎖空間で零能者こと九条湊が如何に怪異の謎を解明するかというのが面白い。また,舞台が豪華客船ということで当然にように沈没するわけですが,その危機的な状況を如何に脱するのかというのも読みどころとなります。短篇も悪くないけれど,このシリーズに関して言えば長篇の方が読み応えがあって楽しいです。幾つかの事象が一点に収束する感覚を味わえるのが素敵。中には付会な部分もありますが,相応の説得力があるので,それ程には気になりません。勿論,湊の人の悪さも健在。とは言え,最終的には誰もが幸せになる方向へと策を進めるのが隠しきれない真の性質と言えるのでありましょう。だからこそ,沙耶とユウキが湊のもとを離れないのだと思います。そして,理彩子と孝元もね。

 豪華客船に出る幽霊の真相を求めて依頼を受けた湊たちが直面するのは原因不明のままに徐々に沈没していくという非常事態。海に出る怪異と言えば,海坊主や船幽霊が一番人口に膾炙していると思われますが,今回の事態を引き起こしたのは船幽霊のほうとなります。しかし,単なる船幽霊ではないというのが面白いところ。このあたりの説得力は非常に楽しいです。やや気になるところがないでもありませんけれども。また,事件の解決に至るのに偶然に因るところを感じました。尤も,この偶発的な出逢いがなかったならば,別の手法で事件を解決に導いたのだろうという信頼感もあるわけですけれども。いずれにせよ,一見無関係に思える事象を一点に収束させる明敏な論理は素晴らしい。このあたりの爽快感は気持ちいい程であります。また,今回はいつも以上に沙耶が湊に遊ばれているというのも楽しい。尤も,湊からすれば,或る種の嫌がらせじみたことをすることで,沙耶が自ずと自分の元を去っていくことを期待しているのかもしれませんけれども。素直ではないから口にはしませんが,沙耶とユウキの身を慮っていることは節々に感じます。そのあたりが湊の魅力でもあります。特に今巻では豪華客船の乗客の心理状態を的確に把握し,適切な解決方法を選択する彼の手法が冴えていました。いつになく後味の良さが光ります。船長や佐治など脇役陣も存在感があったのが嬉しいところ。特にヴァイオリニストがいい味を出していました。

 今巻も十分に満足。舞台が舞台だけに理彩子や孝元の出番がほぼ皆無だったのは残念ですけれど,その分は閑話で存分に満たされました。相変わらず,理彩子の弄られ方が酷い。それを込みで湊と親交を結んでいるという点は否めませんけれども。また,今回の閑話では本篇のもうひとつの真相が明かされるのも興味深いところ。その意味では長篇の一部というべきなのかもしれません。気になるのは次巻へと結びつく要素が明かされなかったということ。逆に言えば,先入観なしに楽しめるということでもあります。次巻もなるべく早めに取りかかろうと思います。
タグ:葉山透
posted by 森山樹 at 22:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想
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