2015年12月20日

葉山透『0能者ミナト(5)』

〈2015年読書感想47冊目〉
葉山透『0能者ミナト(5)』


 霊能者を名乗る九条湊の活躍を描く〈0能者ミナト〉シリーズの第5巻。今回も短篇2本と掌篇である閑話が収録されています。今巻では湊というよりも沙耶とユウキのふたりが活躍するのが面白い。相変わらず,沙耶は甘さが抜けない世間知らずのお嬢様でユウキは自分の才能を自覚しながらも心傷を抱く少年といった具合ではありますが,湊とともに幾つもの怪異に立ち向かう中で少しずつ変わりゆくあるものを感じるのが楽しい。尤も,それが結果としていい方向に出ているとは言い難い部分があるのも事実です。沙耶はともかくユウキはすっかり湊に感化されている気がします。本人は全力で否定することでしょうけれども。総本山で将来を嘱望された法力僧が間違った方向に成長しつつある感があります。それも含めて孝元は湊の元にユウキを預けているのは想像に難くありませんが。御蔭神道も総本山もどちらもその全貌が明らかにはなっておらず,胡散臭い部分も非常に高い組織ではあります故。その内実も一枚岩となっていないのは既に語られています。いつか,湊と全面的に対決する時が来るような気がしますね。その際の孝元や理彩子の対応が懸念されます。

 今回収録されているのは「石」と「詐」の2篇。「石」は事実上湊を抜きにユウキと沙耶のふたりが強大な怪異に立ち向かいます。題名からも容易に想像出来るようにその怪異の名は殺生石。即ち,九尾の狐ということになります。歴史上に名を残す大妖怪に対して湊の助力を仰げない状態で立ち向かうふたりの姿に成長を感じます。九尾の狐と殺生石の伝承を現代風に解釈しての謎解きも至極楽しかった。残念だったのは長篇に出来る要素が多いこの大妖怪をあっさりと片付けてしまったことでしょうか。少し勿体ない感じがあります。まあ,そこがこのシリーズらしさとも言えるかもしれません。「詐」は降霊術に纏わる詐欺を題材とした作品。嫌な現実感があるのが面白い。尤も,降霊術の真相は割合に想像出来易いものではありました。他に想定出来そうな要素もなかったですしね。興味深かったのはサトリを倒す為に湊が用いた戦術。心を読めるというサトリの特性を逆手に取って,サトリを倒すというのはまさに湊の真骨頂でありましょう。この詐欺師めいた戦術はあまりにも鮮やかでありました。サトリの娘である倫寧を使って詐欺を行っていた士道骸よりも一枚役者が違った感があります。倫寧はまた登場しそうな感がありますね。骸の逆襲もちょっと期待しています。

 今回収録されている2篇はどちらも満足。共に伝承に残る妖怪を題材にし,尚且つ独創性の高い戦術を用いて対処したという点が光ります。今までの中でもかなり評価の高い作品と言えるのではないでしょうか。閑話の緊張感のない楽しさも魅力的。「詐」の結末と合わせて,湊の偽悪趣味というか露悪趣味が微笑ましいです。尤も,単に本音という可能性も捨てきれないのですけれども。閑話恒例の次巻予告も非常に楽しみ。湊が早々と興味を引くに至った怪異が何か気になるところです。孝元や理彩子との過去の物語も期待したいもの。早く最新巻まで追いつこうと思います。
タグ:葉山透
posted by 森山樹 at 10:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想
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