2015年12月24日

田中芳樹『アルスラーン戦記(9)旌旗流転』

〈2015年読書感想50冊目〉
田中芳樹『アルスラーン戦記(9)旌旗流転』


 古代ペルシア的世界を舞台とした異世界大河ファンタジィ〈アルスラーン戦記〉の第9巻です。第二部としても2巻目を数えて色々と動きが出てきました。一番大きいのは仮面兵団を率いるヒルメスがチュルクの庇護下から離れ,再び流浪の徒に着いたということでありましょう。今巻の題名はまさにヒルメスにこそ相応しい。また,ミスルでは偽ヒルメスに仕えていたザンデが謀殺されました。第一部ではともかく第二部ではかなり好感を持っていた人物だけに残念です。このことがヒルメスの行く路に如何なる影響を及ぼすのか懸念されます。ブルハーンは忠実で勇猛ではありますが,副将という器には感じません。改めてヒルメス陣営に対してアルスラーン側に有為な人材が集まっていることが分かります。これが将器と言ってしまうのは,ヒルメスには酷に感じますけれども。実にナルサスとダリューンの会話が的を射ているように思います。そして,蛇王ザッハークの魔軍も胎動を始めました。飛来した有翼猿鬼との戦いはその嚆矢でありましょう。肥沃なパルスを狙う他国と蛇王ザッハークという敵を前にアルスラーンの前途には更なる多難が続きます。

 今巻で注目するべきは明かされたファランギースの過去でありましょう。ミスラ神に仕える美しき女神官の悲しい境遇が切ない。そして,かつての恋人の弟が蛇王ザッハークを奉ずる魔道士グルガーンというのも皮肉であります。このあたりの因縁は蛇王ザッハークとの戦いの中で大きな意味を持ってきそう。それが悲劇に繋がらないことを祈るばかりです。そして,ファランギースと並んで謎めいた存在であるギーヴの出自は未だに語られず。アルスラーンの忠臣であることに疑う余地はありませんが,此処に至っても過去の一端さえ明かされないというのが興味深いところです。そこに意味が秘められているのか気になります。また,新たな登場人物としてはチュルクの王族のひとりカドフィセスの役割も面白そう。事実上,カルハナ王から放逐され,現在はシンドゥラのラジェンドラ王のもとで捕虜となっていますが,このまま終わる人物ではないでしょう。対チュルクにおける鍵となりそうです。ラジェンドラの図々しさは相変わらず。そこがまた憎めない人物ではあります。このあたりはミスルのホサイン三世やチュルクのカルハナ王と比べて圧倒的に魅力的に感じます。パルス諸将からすれば大して変わらぬ存在かもしれませんけれども。ナルサスにすればラジェンドラ王は単純な分,扱い易い駒なのかもしれません。

 祖国解放という陽性の雰囲気に満ちていた第一部に比べ,第二部は翳りを伴う空気が漂うのが苦しい。未だに十六翼将はその最後のひとりを得ていませんが,揃ったと同時に失われていくのは自明でありましょう。みな愛着ある人物だけに誰が喪われても厳しいものがあります。とは言え,今後ますます蛇王ザッハークはその再臨への気配を濃くしてゆくことでありましょう。チュルクとミスルだけではなく,マルヤムのギスカールや流浪するヒルメスといったあたりも再びパルスに対して牙を剝くことは容易に想像出来ます。このアルスラーンの苦難の旅路が如何なる結末を辿るのか大いに気になるところであります。
posted by 森山樹 at 21:39| Comment(4) | TrackBack(0) | 読書感想
この記事へのコメント
来年ぐらいで既刊に追いつきそうですね。だが追いついてからが地獄だ。21世紀になってから4冊しか刊行されてないからな!'`,、(´∀`) '`,、
Posted by なかやま at 2015年12月30日 01:48
>なかやまさん
一応,2016年に第15巻が出るみたいです。
というか,21世紀になって4冊って意外に多かった><
Posted by 森山樹 at 2016年01月04日 20:02
うん、去年も今年出るかも?って言ってた,、'` ( ´∀`) ,、'`今年出なかったら、どこのオリンピックだって感じです。
Posted by なかやま at 2016年01月05日 02:12
>なかやまさん
既に執筆中らしいので今年出るのはほぼ確実かと。
『タイタニア』を思えば4年なんて短い方ですよ!
Posted by 森山樹 at 2016年01月06日 07:24
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