2016年01月07日

ランドル・ギャレット『魔術師を探せ!』



 魔術が存在する架空の英国を舞台とした連作ミステリィ短篇集です。リチャード1世が戦死することなく生き長らえたことで歴史は自分たちの世界と異なる歩みを見せているという設定が楽しい。即ち,リチャード1世の後を継いだのはジョン欠地王ではなく英邁なアーサーであり,故にプランタジネット朝が800年に渡って存続するというのは英国史好きには素敵な思考実験であります。その版図はフランス全土を含んでいるというのも説得力があります。この世界観の元で探偵役を務めるのは捜査官ダーシー卿と上級魔術師のショーン。魔術という便利な力が存在する世界でありながらも,きちんとミステリィとして成立しているのが面白いです。この世界での魔術は必ずしも万能の力ではなく,寧ろかなり制約の課された技術となっています。その力を過不足なく駆使するショーンは謂わば分析官と言ったところでしょうか。ショーンの魔術で得た証拠をダーシーが推理によって事件を解明する構図が非常に魅力的。この役割分担が明確になっているのが,本作の面白さだと思います。

 収録されているのは3篇。それぞれに違った使われ方をする魔術が興味深いところ。一番好きなのは「シェルブールの呪い」。ポーランド王国の陰謀が描かれる物語ですが,何よりも“相似の法則”という魔術の要素が絶妙に使われているのがたまりません。まさにこの世界観ならではの物語と言えるかと思います。意外性のある真相も楽しかった。割とダーシー卿は失策を犯している感もありますけれども。「青い死体」はその題名通りに全身が青く塗られた死体に纏わる怪事件。此方で扱われる魔術は“代喩の法則”というもの。これは使いようによってはかなり便利な力なのですが,あくまでも証拠の再現に留まっているのが良いです。関係者全員を集めて事件の謎を説明するダーシー卿の姿にミステリィの王道を感じます。「その眼は見た」は死者が最後に見たものを眼球に焼き付けた映像を再現する“眼球検査”が効果的に使われます。この使い方が大変に好み。ダーシー卿の優しさと配慮が光る物語でありました。彼の姿にこの世界における英国紳士の格好良さを見ます。相棒のショーンは実際のところは全篇を通じて割合に影は薄い感じは否めません。しかしながら,ダーシー卿の推理にはショーンの魔術が欠かせないのも事実。その意味ではやはりふたり揃ってこそというべきなのでありましょう。また,聖職者の行使する治癒の力が巧みに使われているのも面白い。こういった技術として定着した魔術の存在する世界観は好みです。

 魔術という新たな公理が取り入れられているにも関わらず,ミステリィとして抜群に面白いというのが素敵です。ダーシー卿とショーン,それに彼らに指令を下すノルマンディ公爵ら登場人物も大変魅力的。やや脇役陣は混同してしまう部分は否めませんけれども。何よりもやはりこの世界観に心惹かれてしまいます。実のところ,再読ということになるのですが,印象に残っていたのは物語よりも世界観のほうでありました。今回は復刊という形になりますが,是非とも未訳の作品を含むダーシー卿とショーンが活躍する一連の物語の刊行を待ちたいもの。特に長篇である『魔術師が多すぎる』はまさに魔術師だらけのシリーズ集大成ともいうべき作品とのこと。是非の復刊を希望して止みません。

(ハヤカワ文庫HM 2015年)

posted by 森山樹 at 22:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想
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