2016年01月17日

櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス なくせない鍵』

〈2016年読書感想3冊目〉
櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス なくせない鍵』


 大学のオカルト研究会を舞台とした青春オカルトミステリィの第7作目。いつも通りの短篇集となっています。今回は副題にもあるように鍵を媒介とした物語が多かったのが印象的。物語そのものは恐怖要素を含めて割合に面白かったのだけれども,相変わらず森司の空転するこよみへの片想いが非常に鬱陶しく感じます。既に切ないとかもどかしいといった領域を超越しています。片想い相手への慕情を描くというのがこの作品の売りなのかもしれませんが,無い方が遥かに魅力的に思えるというのが皮肉。何しろ,この要素を挿入しなかったとしても物語としては十分に成立するのですから。少しずつでも前進するのならばともかく,ずっとその場で足踏みをするだけの停滞状況が延々と続いているので物語としての起伏にも寄与していません。この展開,というか不展開に誰が得をするのか全く理解出来ません。これが最初の数巻と言うのであれば分からないのでもないですが,既に7作目にもなって未だにそのままというのは流石に問題があるように思います。森司の無意味な葛藤にはもううんざりしています。

 収録されているのは4話。どれも大差なく面白いように感じますが,一番好きなのは「嗤うモナリザ」かなあ。如何にも〈ホーンテッド・キャンパス〉といった展開ではありますが,最後の不思議な現象が効果的に余韻を残します。小泉八雲の小説が登場するのも大変宜しい。「仄白い街灯の下で」は感動的なのだけど,やや綺麗過ぎる感が少し引っ掛かりました。「嗤うモナリザ」との対比は興味深かったのですけれど。そして,この話以降の森司の空転具合が酷い。「薄暮」は図書館を舞台としたお話。悔恨と贖罪が辛い。それでも光のある結末であることは好印象。結局は人は自分から逃れることは出来ないのだということを想います。板垣果那が登場するのも嬉しい。個人的にはこよみよりも果那のほうにこそ魅力を感じます。だからこそ,以前のお話を含めて森司の果那への対応が原正しいというのは確かに有るように思います。「夜に這うもの」は連鎖する自殺の謎を追う正統派のホラーミステリィ。「嗤うモナリザ」と同程度に好み。とは言え,自殺の連鎖を誘発していた真相の後味は良くありません。年代が明らかになることで或る程度の予測は出来ていましたけれどね。お菊虫が重要な存在となるのは面白かったです。そして,このお話のこよみの行動で一定の結論は出された気がします。それに気付かない森司の鈍感ぶりが絶望してしまう位に酷いです。その癖にエピローグでのこよみに送った大胆なプレゼントには思わず引いてしまいます。藍に教育的指導を受けるべきでありましょう。

 相変わらず,〈ホーンテッド・キャンパス〉らしさに溢れた作品であります。物語としては割合に重たい話が含まれているのですけれども,決して重た過ぎることがないのは好印象。一番不要に感じるのが本筋としたいのであろう森司の片想いというのは皮肉であります。今作を含めて此処迄全てが短篇集ということもあって,そろそろ長篇作品も読みたい気がします。既に刊行されている第8作目が初の長篇ということで期待をせずにはいられません。もう少し藍の登場が多く,ホラー要素が強いと嬉しいのですけれども。何はともあれ,十分以上に楽しめる作品ではありました。満足です。

(角川ホラー文庫 2015年)
タグ:櫛木理宇
posted by 森山樹 at 16:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想
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