2020年03月19日

ジェームス・ロリンズ『チンギスの陵墓(下)』

〈2020年読書感想16冊目〉
ジェームス・ロリンズ『チンギスの陵墓(下)』


割と衝撃的な展開が繰り広げられる〈シグマフォース〉の第8作目です。
事態の解決は相変わらず御都合主義的なことは否めず。
流星が夜空を駆ける結末は美しさも感じましたけれども。
アッティラとチンギスハンの謎が聖トマスに帰結するのは素敵でありました。
付会ながらも楽しませてくれたので十分に満足しています。
一方で科学的な要素が最終的に神秘主義に帰結することには辟易してしまいます。
流石に此処まで読み続ければ慣れたとも言えなくはないのですが。
それより何より人間関係に大きな動きがあったことに驚きました。
奇妙な三角関係がこのような形で終止符が打たれるとは思ってもみなかった。
初期作からシリーズを彩ったふたりの退場は感慨深いものがあります。
何と言うか,寂しくなってしまいますね。
残されたふたりの関係に影を落とすことにもなるのかもしれません。
コワルスキが去ったふたりに捧げた言葉が心に残りました。
一方でダンカンとジェイダは予想通りにくっつきました。
共に個性的な能力の持ち主だけに今後の登場も期待出来そうな気がします。
ギルド亡き後の敵役は今後は毎回変わることになるのかしら。
今作ではモンゴルの有力者と北朝鮮の科学者がシグマフォースと対峙しました。
但し,どちらも底の浅さを感じさせてしまうのが難点であります。
特にバトゥハンとその一党は存在感をあまり感じませんでした。
モンゴル人の少女ハイドゥは割と魅力的だったのですけれどね。
セイチャンと母グァン・インの関係は今後も描かれることになりそう。
特にグァン・インはマカオの裏の支配者としての立ち位置に期待出来そうです。
有り得たかもしれないもうひとつの結末が印象的な作品でありました。

(竹書房文庫 2015年)
posted by 森山樹 at 06:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想

2020年03月15日

ジェームス・ロリンズ『チンギスの陵墓(上)』

〈2020年読書感想15冊目〉
ジェームス・ロリンズ『チンギスの陵墓(上)』〈シグマフォース〉


ギルドの戦いを終えたシグマフォースの新たな戦いが描かれる第8作目です。
前作で明かされたセイチャンの素性にも大きな焦点が当てられています。
今作の題材は科学面ではダークエネルギーということになるのかな。
彗星に近付いた軍事衛星が遺した写真は大変に魅力的です。
その写真には廃墟と化した四日後のアメリカ東海岸が映されていたのですから。
同じく四日後の地球の滅びを記した古い頭蓋骨との関係も楽しみ。
歴史的側面ではチンギスハンやアッティラに纏わる謎が提示されます。
相変わらず,付会な部分は多いのですが,心惹かれるのも確かではあります。
ヴィゴーやレイチェルと言った馴染みの人物の再登場も嬉しい。
現段階ではモンクとレイチェルが上記の謎を追う形となります。
今作から登場の天文物理学者ジェイダ・ショウは割と好みな女性ですね。
また,シグマフォースにも新たにダンカン・レンが加わります。
ダンカンは指先に磁石を埋め込むことで磁力を感じ操る人物です。
この能力が早速様々な面で活かされるのは楽しい。
一方でグレイ・ピアースはセイチャンと共に彼女の母を捜索しています。
その過程でセイチャンが北朝鮮に拉致される等の動きの速さが面白い。
セイチャンの母が香港の裏社会の大物というのは些か出来過ぎでありましょう。
前作で明かされた実父の正体も併せてセイチャンの出自は意外性がありました。
問題は事件の解決篇となるであろう下巻の展開です。
チンギスハンの遺産を狙うモンゴルの有力者の存在が非常に不穏です。
また,北朝鮮の科学者パク・ファンもこのままでは終わらない筈。
数日後に迫る地球の滅亡の真相とその打開策も含めて目が離せません。
尤も,過度な期待は禁物であると言うことも承知はしています。

(竹書房文庫 2015年)
posted by 森山樹 at 12:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想

2020年03月14日

宮澤伊織『裏世界ピクニック』

〈2020年読書感想14冊目〉
宮澤伊織『裏世界ピクニック』


都市伝説を題材とした女の子怪異探検小説の第1作目です。
扱われる都市伝説が“くねくね”や“きさらぎ駅”といった現代のものというのは特徴的。
寧ろその性質上ネットロアを題材にしているというべきなのかもしれません。
第2作目以降でどのような題材が扱われるかを楽しみにしたいものです。
構成としては4篇からなる連作短篇集の体裁を採っています。
基本的にはそれぞれに独立しているので,展開が早くて読み易い。
軽快で機知に富んだ文章そのものも魅力的であります。
このあたりは語り手である空魚の個性に因るかもしれません。
主人公はその空魚と鳥子のふたりの女の子。
彼女たちの裏世界と呼ばれる異世界での探検の日々が描かれます。
裏世界は怪異が跋扈する危険な世界ですが,それも含めてかなり魅力的です。
この世界の存在する意味は未だ不明なのですが,いつか明かされるのでしょうか。
また,この世界に偶然足を踏み入れる人が結構多いのも面白い。
「ステーション・フェブラリー」では在日米軍の一部隊までもが巻き込まれています。
そして,救いのない結末に終わる結果となることもしばしばであります。
このあたりはいつかどこかで更なる後日談が描かれるのかもしれません。
いずれにせよ,主人公ふたりも世界観も非常に魅力に溢れているのは嬉しい。
女の子同士の友情の物語としても十分に堪能することが出来ます。
個人的にはふたり以上に彼女たちを支援する小桜さんが好きなのですけれども。
収録作品では「くねくねハンティング」が一番面白かった。
冒頭に置かれたこの作品で『裏世界ピクニック』に嵌まった気がします。
ちょっと困った変な性格だけど鳥子は無茶苦茶に格好いいですしね。
裏世界で消息を絶った冴月さんの謎はまだ残されたまま。
空魚と鳥子のふたりの裏世界探検をまだまだ楽しみたいと思います。

(ハヤカワ文庫JA 2017年)
タグ:宮澤伊織
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2020年03月08日

椹野道流『隻手の声 鬼籍通覧』

〈2020年読書感想13冊目〉
椹野道流『隻手の声 鬼籍通覧』


法医学研究所を舞台とする〈鬼籍通覧〉の第4作目です。
今作はこれまでになくホラー要素がほぼないというのが物珍しい。
と言うか,大きな事件自体も終盤まで発生しないのが異色感あります。
ネットゲームを媒介とした伊月とブルーズの交流が興味深い。
このあたりも前作同様に刊行当時は時代を先取りしていたのでしょう。
現在となっては最早手垢のついた感じがあるのが惜しいです。
新装版に際して手を入れた部分もあまり効力を発揮していない気がします。
今作で扱われる題材は虐待という非常に重たいもの。
但し,物語としてはそこまで辛い展開ではないのが救いでありましょうか。
六章で生じる事件は何と言うか哀しいものがありましたけれども。
前作でも登場した龍村監察医が伊月のもうひとりの師匠となったのは大きい。
ミチルさんとは異なる立ち位置で,より厳しく伊月を指導することになります。
ホラー要素はほぼなく,ミステリィ要素も希薄でしたが,それなりに面白かった。
此処まで読むことで登場人物たちの立ち位置が確立されたこともあるのでしょう。
其処まで魅力的な人物が多いというわけでもないのですけれども。
伊月とブルーズの交流は素直に楽しいものがありました。
ブルーズの未来に幸があることを願うほかありません。
痛ましい事件の解決の後にブルーズの問題が解消されたのは嬉しい。
これが後味の良い読後感に繋がっているように感じます。
とは言え,やはり物足りなさを感じてしまうのも事実。
次作ではこれまで以上のミステリィとホラーの両要素を期待したいものです。

(講談社文庫 2019年)
タグ:椹野道流
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2020年03月03日

櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス この子のななつのお祝いに』

〈2020年読書感想12冊目〉
櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス この子のななつのお祝いに』


〈ホーンテッド・キャンパス〉の第8作目は初の長篇となりました。
藍の卒業を祝しての温泉旅行で巻き込まれる騒動が描かれます。
長篇と言っても壮大でも派手でもなく,寧ろいつも通りの物語が嬉しい。
但し,物語としてはあまり好みではなかったというのも正直なところです。
超自然的な要素は勿論あるものの神秘主義色は薄めなのが残念。
登場人物も多いのですが,やたらと人間関係が分かり難いのは気のせいか。
黒沼部長の異父弟である菱山久裕も機能しているとは言い難かったです。
或いは今作での登場は事実上の顔見せであるというべきか。
何よりも森司の朴念仁ぶりが更に悪化しているのが本当に気持ち悪い。
こよみの露骨な態度に対する感覚の欠如が酷いです。
この距離感は本当に何とかならないものかなあ。
藍は早くこよみに見切りをつけるべきと助言するべきではないでしょうか。
所謂,“嵐の山荘”的な舞台設定はやはり楽しいです。
逗留を余儀なくされながらも,積極的に楽しむオカルト研究部は良かった。
実在する漫画やゲームが登場することで親近感が湧いた気がします。
舞台となる温泉宿及びその周辺の人物が屑ばかりというのはどうなのかなあ。
一応,様々な事情は解決したということになるのでしょうか。
このあたりも爽快感の乏しさを感じてしまいました。
次作以降はまた短篇で行くのか,長篇路線で行くのかは微妙です。
個人的には短篇集の方が似つかわしく思えます。
藍が卒業して年度が替わる次作での新たな展開に期待したいと思います。

(角川ホラー文庫 2015年)
タグ:櫛木理宇
posted by 森山樹 at 06:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想