2020年01月13日

ジェフリー・ディーヴァー『扇動者(下)』

〈2020年読書感想3冊目〉
ジェフリー・ディーヴァー『扇動者(下)』


〈キャサリン・ダンス〉シリーズの第4作目『扇動者』の下巻です。
幾つかの事件が一点に収束する展開が楽しい。
と言っても,事件の様相が二転三転するわけではないのが物足りない。
まあ,〈リンカーン・ライム〉シリーズとは違うので仕方がないのですけれどね。
群集事故を引き起こしたアンティオック・マーチの手腕は称賛に値します。
但し,その事件の真の目的はかなり想定通りなのは残念でした。
実に現代的な目的であり,それが故に見通し易かったとも言えます。
そして,キャサリン・ダンスが左遷される原因となった事件の真相は予想外。
途中からなんとなくおかしいなという意識はあったのですけれどね。
T.J.スキャンロンがいずれの事件でも重要な役割を担ったのは嬉しい。
改めて彼の有能さが素晴らしいです。
ウェスとマギー,キャサリン・ダンスの子供たちそれぞれの事情も明らかにされます。
このあたりは本筋とは絡まないのですが,大変に面白かった。
特にウェスについてはかなり安心させられました。
そして,ジョン・ボーリングとマイケル・オニールとの関係にも答えが出されます。
これもまた予想通りと言えば予想通りなのですが,此処で来るとは思いませんでした。
リンカーン・ライム程の天才性がない分,泥臭い捜査が続くのは好み。
事件そのものの結末は〈リンカーン・ライム〉よりも面白さを感じないのは残念です。
いつか,また,キャサリン・ダンスとリンカーン・ライムの競演が見たいです。
彼との思い出の品が登場することに嬉しさを感じる作品でありました。

(文春文庫 2019年)
posted by 森山樹 at 07:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想

2020年01月12日

ジェフリー・ディーヴァー『扇動者(上)』

〈2020年読書感想2冊目〉
ジェフリー・ディーヴァー『扇動者(上)』


嘘を見抜く天才を主人公に据える〈キャサリン・ダンス〉シリーズの第4作目です。
今作で対峙する相手は題名通りに群集心理を巧みに突く凶悪な扇動者。
その悪質な手法はこれまでの誰よりも腹立たしさを覚えます。
反抗の目的が未だに判然としないというのも非常に怖い。
キャサリン・ダンス自身も犯人の標的にされてしまっています。
上巻末ではかなり危機的な状況に陥っていますが,打開策はあるのでしょうか。
また,同時並行的に起こっている事件が如何に絡むのかも楽しみです。
特にキャサリン・ダンスが左遷される原因となった事件が気になります。
本当にキャサリン・ダンスの失策なのかも疑わしいように感じます。
ジョン・ボーリングとの関係は一歩進んだけれど,この要素はどうでもいいかなあ。
相変わらず,マイケル・オニールにも心揺れる感情を持っているようでもありますが。
如何なる苦難も乗り越えていくキャサリン・ダンスは本当に魅力的。
左遷されながらも,きちんと自己の立ち位置は確立していますしね。
登場人物は多いのですが,個性が立っているので混同することはありません。
スティーヴ・フォスターの動向にやや不穏なものを感じるのは気のせいかなあ。
扇動者であるアンティオック・マーチの視点も興味深いものがあります。
キャサリン・ダンスとアンティオック・マーチの息詰まる心理戦の結末が楽しみです。
そして,その先に潜むであろう事件の真の姿も期待せざるを得ません。
改めてジェフリー・ディーヴァーの語り口の上手さを実感させられます。

(文春文庫 2019年)
posted by 森山樹 at 08:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想

2020年01月11日

峰守ひろかず『絶対城先輩の妖怪学講座(12)』

〈2020年読書感想1冊目〉
峰守ひろかず『絶対城先輩の妖怪学講座(12)』


これが最終巻となる〈絶対城先輩の妖怪学講座〉の第12巻です。
前巻で,概ね本筋の決着はついており,今巻はシリーズ集大成といった印象。
シリーズを彩った人物が彼処に登場するのが嬉しい。
そして,物語の展開も今シリーズの王道といって良いでしょう。
妖怪の意外な正体や伝承の想定外の真相,起伏に富んだ物語が飽きさせません。
今巻の題材となるのは“猫”に纏わる妖怪や伝承,昔話等。
猫ばばや猫また,猫の王に五徳猫と猫尽くしの一巻となっています。
猫尽くしでありながら,一章の章題が「火車」という意外性もの楽しい。
勿論,火車と猫の意外な繋がりも非常に楽しいものがあります。
とは言え,“猫の王”の意外過ぎる真相は流石に牽強付会かなあ。
それを承知の上で,十分に楽しめる作品に仕上がっているのは嬉しいです。
“猫また”の正体はシリーズを読み続けてきた身としては思わず頬が緩みます。
科学的な見地からの検証も為されているのが説得力を有していますね。
絶対城阿頼耶とユーレイこと礼音の着地点は想定通りながら悪くなかった。
杵松先輩と織口先生もそれぞれの立場で存分に活躍をしてくれました。
特に杵松先輩はシリーズを通しての立役者のひとりでありますね。
また,〈狐〉も端役ながら,その存在感を発揮しています。
残念だったのは,クラウス先生と櫻城晃の出番が少なかったことかなあ。
尤も,あまり登場人物を増やし過ぎても問題はあるのではありますけれども。
ともあれ,シリーズの最後を飾るに相応しい作品でありました。
絶対城と礼音の葛藤とその回答も非常に満足のいくものでありました。
このシリーズに出逢えたことに心からの感謝を。
いつか,また,絶対城達に再会出来る日が来ることを願って已みません。

(メディアワークス文庫 2019年)
posted by 森山樹 at 11:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想

2020年01月10日

櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 雨のち雪月夜』

〈2019年読書感想76冊目〉
櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 雨のち雪月夜』


新たな登場人物を交えて展開する〈ホーンテッド・キャンパス〉の第6作目です。
今巻も4篇からなる短篇集の体裁を採っています。
特徴的なのは森司の旧友の津坂浩太が全篇に渡って登場すること。
大きな役割を果たすわけではないのですが,物語をひっかきまわしてくれます。
その在り様が個人的にはやや鬱陶しく思えるのも事実。
悪い奴ではないのですが,何と言うか面倒くさいのですよね。
とは言え,森司にとっては唯一対等とも言える立ち位置の存在ではあります。
だからこそ,あまりいい感情を抱かされなかったことは残念でした。
収録された4篇では恐怖小説色が一番強い「よくない家」がお気に入りです。
最終的に事態が解決されなかったというのも余韻を残します。
特別な存在ではない森司や泉水には手に負えない事態もあるということでしょう。
同じく「異形の礎」も恐怖小説色が強くて良いですね。
実在する心霊事件を題材としているのが個人的には好みでした。
「旅籠に降る雨」はファフロツキーズ現象を扱った作品です。
意外な真相が悪くない。
恐怖小説的ではありませんが,怪奇現象を前面に押し出しているのが良かった。
「白のマージナル」は藍の過去の出来事が語られます。
オカルト研究会設立に至る物語でもあります。
最終的にはちょっと泣かせるお話になるのが如何にもこのシリーズらしいところ。
今巻は過去作よりも多彩な作風が多くて楽しめました。
森司のこよみへの想いを前面に押し出すのはあまり好きじゃないのですけれどね。
クリスマス物語としては良い終わり方だったのではないでしょうか。

(角川ホラー文庫 2019年)

タグ:櫛木理宇
posted by 森山樹 at 06:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想

2019年12月29日

椹野道流『無明の闇 鬼籍通覧』

〈2019年読書感想75冊目〉
椹野道流『無明の闇 鬼籍通覧』


新装版に際して再読をしている〈鬼籍通覧〉の第2作目。
主人公がスマートフォンを使用したり,時代に即した改変がされています。
今回は主人公の一角であるミチルの過去に焦点が当てられます。
序盤の乳幼児連続突然死事件が本筋に絡まなかったのは残念かなあ。
尤も,なかなか関係させることが難しいのも事実ではありますが。
幽霊が登場する等,相変わらず超自然的な事象が登場します。
このあたりは好き嫌いが分かれそうな気がしますが,個人的には悪くない。
但し,超自然の手を借りた私刑に思えてしまうのは釈然としませんでした。
実際にそうなのかは明言はされていないのですけれどね。
ミステリィと呼ぶには推理要素があまりないのは残念。
法医学に伴う人体解剖の描写はやはり苦手ですね。
幽霊よりも余程にそちらの方が苦手だったりします。
完璧超人に思えていたミチルの意外な弱点というのも興味深いものがありました。
警察官に対しても言うべきことは言う熱い気持ちが素敵です。
伊月とミチルの微妙な関係は好きなのですよね。
そして,それを師として見守る都筑教授の存在感も頼もしい。
一方で清田や陽一郎,峯子あたりの影は薄かったかなあ。
筧はやや無理矢理な程に優遇されている感がありますね。
事件としてはそんなに面白くなかったかなあ。
前作同様に真犯人が胸糞悪いというのはちょっと気になります。
この路線がずっと続くのであれば,辟易とした想いが露わになってきそう。
次作以降の路線がやや心配になる作品でありました。

(講談社文庫 2019年)

posted by 森山樹 at 22:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想