2019年12月05日

椹野道流『暁天の星 鬼籍通覧』

〈2019年読書感想71冊目〉
椹野道流『暁天の星 鬼籍通覧』


法医学教室を舞台としたミステリィシリーズ〈鬼籍通覧〉の第1作目です。
新装版刊行に伴う再読ということになります。
と言っても,久しぶり過ぎて内容を殆ど覚えていなかったのですが。
基本的には長篇作品と言えますが,一章だけは独立した物語となっています。
導入部ということであまり気にはなりませんが,ちょっと違和感がありました。
ミステリィとともにホラー要素が強いのもシリーズの特徴です。
今作での本筋となる連鎖する女性自殺事件では科学的に解明されない部分もあります。
法医学という科学捜査を主体にしながらということで楽しいです。
事件の真相というか発端は反吐が出る程に下衆なものですけれどね。
このあたりはあまり趣味であるとは言えません。
また,法医学教室が舞台ということで遺体の解剖場面が克明に描かれます。
作者が監察医ということもあって,生々しい描写が現実感があります。
苦手と言えば苦手なのですけれど,興味が先に立ってしまうのが面白いです。
自動車による轢死体の解剖場面は流石に辟易としてしまいましたけれども。
登場人物は個性が克ちすぎて,ややあざとさを感じてしまいます。
何処となく,所謂BL要素が強いのは気のせいなのか。
主人公である伊月崇とその先輩である伏野ミチルの組み合わせは好き。
後はいずれも何処か苦手な雰囲気を感じてしまいます。
物語としてはホラー風味が強いということで釈然としない結末ですね。
これを受容出来るか否かは読後感に影響してくるところでありましょう。
個人的には全ての謎が明かされる必要はないと思っています。
よって,それ程気にはなりませんでした。
幕間劇の「飯食う人々」の雰囲気が一番好きではありますけれども。
暫く休止していたようですが,再びシリーズとして再開されている模様。
今後も新装版の刊行を順次追いかけて行きたいと思います。

(講談社文庫 2019年)

タグ:椹野道流
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2019年12月04日

加藤実秋『メゾン・ド・ポリス4 殺人容疑の退職刑事』

〈2019年読書感想70冊目〉
加藤実秋『メゾン・ド・ポリス4 殺人容疑の退職刑事』


退職した刑事達の活躍を描く〈メゾン・ド・ポリス〉シリーズの第4作目です。
長篇だった前作とは異なり再び短篇集となっています。
個人的にはこのシリーズは短篇集のほうが似つかわしく思えますね。
収録されているのは全部で5篇。
食品偽装やネットバッシング,老人を対象とした詐欺等の現代的な犯罪が並びます。
1980年代を想起させる雰囲気が漂っていた加藤実秋作品にしては面白い趣向でしょう。
また,退職刑事達の過去が絡む事件が用意されているのもシリーズ恒例となっています。
何と言っても,個性豊かな退職刑事の面々の活躍が楽しい。
気障で瀟洒な化学分析屋の藤堂さんが一番のお気に入りかな。
彼らに振り回される牧野ひよりも着実な成長の跡が窺えるのが嬉しいです。
過去作よりも出番はやや控えめな印象がなくはなかったのですが。
ひよりの上司である新木課長と松島係長もいい味を出していました。
原田はあまりいいところがなかったのは残念です。
殺人容疑を掛けられた迫田さんが新木課長と原田に取り調べられる場面は大好き。
元刑事ということで手法を熟知した相手というのは遣り難いことでありましょう。
藤堂の元妻である沙耶ももう少し出番が欲しかったかなあ。
今作では夏目の過去が明らかになる第五話が好みでありました。
過去の犯罪を地道に捜査する退職刑事達の姿が頼もしい。
それぞれの得意分野に応じて活躍の場が与えられるというのが良いですね。
時間の壁に守られた真犯人がきちんと罰を与えられるのも因果応報でありましょう。
大掛かりな犯罪が描かれることがないのもシリーズの雰囲気に合っています。
伊達がメゾン・ド・ポリスを作った理由が次作での焦点となりましょう。
警視庁副総監だった伊達の過去は未だに描かれていないのですよね。
好々爺といった印象しかない伊達の現役時代の姿も知りたいものであります。
シリーズ好きとしては素直に楽しめる作品でありました。
〈ICE MOON〉の登場が少なかったりと過去作に比べて変化がある部分も見られます。
それも含めて更なるシリーズの展開が楽しみとなる作品でありました。

(角川書店 2019年)

タグ:加藤実秋
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2019年11月24日

田中芳樹『アルスラーン戦記(15)戦旗不倒』

〈2019年読書感想69冊目〉
田中芳樹『アルスラーン戦記(15)戦旗不倒』


再臨した蛇王ザッハークの軍勢との戦いが苛烈する〈アルスラーン戦記〉第15巻です。
軍師であり宮廷画家でもあるナルサスが横死する重要な巻でもあります。
アルスラーンの将来を決定づけたのがヒルメスだったというのも運命的でありましょう。
その発端が単なる偶然に過ぎなかったというのも歴史の嘲笑を感じさせます。
今巻で主な舞台となるのはパルス以外ではミスルとシンドゥラ,マルヤムです。
ミスルではヒルメスを放逐し王座を奪ったテュニプと孔雀姫フィトナが中心となります。
テュニプの末路は悲惨なものでありましたが,同情には値しません。
というか,最後は完全に孔雀姫フィトナの術中に嵌まった感があります。
勿論,その背後に潜むラヴァンあってのことではあるのですが。
フィトナもラヴァンも此処まで重要な立ち位置となるとは登場時は思いませんでした。
特にラヴァンの真の正体はあまりに意外過ぎます。
これは当初からの構想通りということになるのでしょうか。
シンドゥラではパリパダが暴発し,カドフィセスが殺害されました。
カドフィセスは結局最後まで存在意義が分からなかったなあ。
一方でサリーマ王女の聡明さが素晴らしい。
そして,マルヤムではギスカールとヒルメスが再同盟を組むことになります。
ギスカールの器量をヒルメスが意外に高く評価しているのが面白いところ。
ギスカールは作中においてもかなり好きな登場人物なので嬉しいです。
ヒルメスは何と言うか坂道を転げ落ちるような運命でありますね。
チュルクでイリーナ王女とともに穏やかに幸せに暮らして欲しかった。
そのヒルメスとブルハーンによりナルサスとアルフリードが舞台から去りました。
最後にふたりが結ばれたのがせめてもの慰めというべきか。
しかし,ナルサスがザーブル城へ単独行を決めた理由は終ぞ理解出来ませんでした。
このあたりがやや個人的には消化不良な感があります。
それにしてもアルフリードとその夫を失ったメルレインの慨嘆が胸に迫ります。
ペシャワールに続き,ソレイマニエが落ち,ナルサスさえもアルスラーンは失いました。
蛇王ザッハークと魔将軍イルテリシュが率いる魔軍との戦いが迫ります。
更にヒルメス,フィトナ,ギスカールも健在という危機的な状況を迎えました。
残すはただ1巻のみ。
〈アルスラーン戦記〉に如何なる終幕が訪れるのか不安を感じる巻でありました。

(光文社文庫 2019年)

タグ:田中芳樹
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2019年11月18日

高田崇史『QED 憂曇華の時』

〈2019年読書感想68冊目〉
高田崇史『QED 憂曇華の時』


約8年ぶりに刊行される〈QED〉シリーズの最新作です。
此処のところ刊行されていた3作は一応外伝という扱いとなります。
本篇が再開されるということなのかは微妙なところ。
いずれにしても,一度は完結したシリーズの新作が読めるのは喜ばしいです。
内容としては外伝を含めた〈QED〉シリーズの基本形といった感じ。
謎めいた殺人事件とそれに纏わる歴史や文化の闇が解き明かされます。
尤も,殺人事件については特に面白みがないのもいつも通り。
舞台装置としてはそれなりの役割を果たしていますが,なくても別に問題はなし。
ダイイング・メッセージの無意味さを繰り返しタタルが指摘するのは好きですが。
また,本篇ということでなのか,タタルと奈々に加えて小松崎が登場します。
やはりこの三人が揃ってこその〈QED〉という印象がありますね。
今回解き明かされる歴史の謎は“安曇一族”を中心としたもの。
かつて一大勢力を誇った海の部族の物語が語られます。
穂高神社や宇佐神宮,住吉大社等が関わる壮大な歴史の闇が興味深い。
その規模は本シリーズの中でも最大と言ってもいいのではないでしょうか。
『卑弥呼の葬祭−天照暗殺−』とも密接に絡んでいるのが楽しいです。
あの時にタタルが何を調べていたのかが明らかになるのは良い趣向ですね。
とは言え,情報量があまりにも多過ぎて全てを咀嚼出来ていないのも事実。
少し時間を置いてから改めて再読したいと思います。
というか,〈QED〉シリーズ自体を改めて読み返してみたいですね。
この作品が新たな〈QED〉の幕開けとなることを期待したいと思います。
本篇で語られるように次回作の舞台は宇治ということになるのでしょうか。
意外に平安時代が題材のものは少なかったので楽しみにします。

(講談社ノベルス 2019年)

タグ:高田崇史
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2019年11月11日

櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 死者の花嫁』

〈2019年読書感想67冊目〉
櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 死者の花嫁』


夏休みのオカルト研究会合宿が楽しい〈ホーンテッド・キャンパス〉第4作目です。
五十嵐結花と片貝璃子が参加しているのは個人的に嬉しいところ。
小山内陣はまあどうでもいいです。
悪いやつではないし,寧ろいいやつだとは思うのですけれどね。
主人公の森司が過剰に意識して,望まぬ心理描写が増えるのが問題です。
今作も短篇集の体裁を採っており,全部で5話が収録されています。
家族を扱ったものが多いのが一応特徴と言えるのかしら。
なお,第4話と第5話が夏休み合宿中のお話となっています。
いつも以上に女性陣が多めで華やかですね。
途中で終わってしまった肝試しが残念に思えましたけれども。
「追想へつづく川のほとり」は部長と泉水の過去話。
それぞれに幼少期より個性を存分に発揮しているのが楽しいです。
虐げられている女性を救う為に奔走するふたりが格好いい。
そして,謎の美少年の正体は或る意味で明らかではありました。
「死者の花嫁」はこよみの大叔母に纏わるお話です。
こよみの両親が初登場するのも興味深い。
結果的には森司にとって都合が良過ぎる展開になってしまうのが残念かなあ。
何と言うか,自助努力に欠ける印象を受けてしまいます。
「うつろな来訪者」は釈然としない終わり方が割と好き。
明確に解決しない結末は恐怖小説のひとつの在り様でありましょう。
結花と璃子にはもう少し出番が欲しかったですね。
特に璃子は森司がお気に入りということで使い勝手はいいと思いますし。
相変わらず,森司に関する以外はお気に入りといったところです。
夏休み合宿に登場する食べ物がひたすらに美味しそうな巻でもありました。
学生ならではの明日を考えない合宿に懐かしさを覚えてしまいますね。

(2013年 角川ホラー文庫)

タグ:櫛木理宇
posted by 森山樹 at 05:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想