2019年12月27日

鯨統一郎『文豪たちの怪しい宴』

〈2019年読書感想74冊目〉
鯨統一郎『文豪たちの怪しい宴』


『邪馬台国はどこですか?』から始まるシリーズの姉妹作です。
というか,シリーズ最新作という位置付けなのかな。
このあたりは判然としないところがあります。
バー〈スリーバレー〉を舞台とするのは共通しています。
但し,今作で扱われるのはこれまでの歴史ではなく文学というのが異なるところ。
著名な作品を題材とした文学談義が繰り広げられます。
いささか,というか,かなり牽強付会な部分も見られますが,その面白さは健在。
宮田の突飛な持論とその論理展開が楽しいのですよね。
お相手をするのはバーテンダーのミサキと文学者の曽根原教授のふたり。
これまでのシリーズに登場の松永と早乙女静香の代わりといった立ち位置です。
尤も,この二人に比べるとやや個性面で劣るのは残念かなあ。
特に曽根原教授は静香程の戦闘性がないので,割と控えめに感じるのですよね。
宮田の論よりもミサキへの感情が強調されている気もします。
ミサキは文学好きなのか話を合わせているだけなのかよく分かりません。
或いはよく分からないと言えるくらいには文学を語れるということも言えます。
扱われる作品は全部で4作品。
『走れメロス』と『銀河鉄道の夜』は馴染み深い作品だけに楽しかった。
特に『走れメロス』を扱う「太宰治〜なぜかメロス〜」は納得出来る部分もあります。
作中の謎や矛盾を全て作者の意図とするのは敬意の表れと言っていいかもしれません。
「宮沢賢治〜銀河鉄道の国から〜」も最後の方は結構強引だけど割と好き。
逆に『こころ』と『藪の中』を扱った二作品はいまいち乗り切れませんでした。
両作品には強い思い入れがないのが原因かもしれません。
『邪馬台国はどこですか?』程の衝撃はありませんが,それでも十分に面白かった。
思考実験という趣もあり,興味深い作品に仕上がっています。
ただ,やっぱり文学よりも歴史を語って欲しいなあというのも正直なところです。
次回作が如何なる方向へ進むのか期待したいと思います。

(創元推理文庫 2019年)

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2019年12月22日

櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 恋する終末論者』

〈2019年読書感想73冊目〉
櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 恋する終末論者』


オカルト研究部の学生を描く〈ホーンテッド・キャンパス〉の第5巻です。
今巻では高校時代の森司に想いを寄せていた同級生の果那が登場します。
なかなか使い勝手の良さそうな騒動屋なので今後も登場することでしょう。
個人的にはこよみよりも余程に魅力的に思えてしまうのが面白い。
藍と言い,果那と言い,脇を固める女性陣が華やかなのは嬉しいです。
璃子や結花の再びの再登場も楽しみにしています。
いつも通りに短篇集の体裁を採っており,収録されているのは4篇。
それなりにホラー要素は強めですが,相変わらず怖いという印象は薄いです。
「告げ口心臓」は血液嗜好症と双子が題材となるお話。
意外な展開とは言えませんが,それなりに面白かった。
「啼く女」と「まよい道 まどい道」は守護霊的な存在を扱った作品。
或る意味でこのシリーズの定番とも言えましょう。
「啼く女」は何と言うか何とも言えなくなるお話ですね。
珍しく森司に共感する部分を感じてしまいました。
「姥捨山奇譚」も割とシリーズではありがちな展開で目新しさはなし。
どのお話も人間の正と負の想いが結局は事件の起点となっています。
人間の心や感情により恐怖は齎されるということでありましょうか。
森司とこよみの関係は相変わらずごくごく漸進といった塩梅かなあ。
小山内陣がほぼ出番がなしという巻でもありました。
こよみの保護者然とした藍が素敵です。
果那の話題の際にこよみの耳を押さえて聞こえないようにするのが可愛い。
まあ,結局はこよみと果那も友達みたくなってしまうわけですが。
面白いのは面白いのですが,同じような話が増えてきたのは残念。
此処からの目新しさを望みたいものであります。

(角川ホラー文庫 2014年)

タグ:櫛木理宇
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2019年12月15日

若竹七海『不穏な眠り』

〈2019年読書感想72冊目〉
若竹七海『不穏な眠り』


有能な不運な女探偵が主人公を務める〈葉村晶〉シリーズの最新作です。
今作は4作が収録された短篇集の体裁となっています。
相変わらずの乾いた毒気に満ちた作風がおぞましくも楽しい。
葉村晶が酷い目にあう展開も毎度お馴染みであります。
というか,初期の作品ではこの要素はあまりなかった筈なのですけれどね。
『悪いうさぎ』あたりから強調され始めたのは気のせいかなあ。
4篇はどれも如何にもこのシリーズらしい作品で大満足。
一番好きなのは「水沫隠れの日々」かなあ。
うっかりミキサーに左手を突っ込んだ人物が多数登場してきます。
その意味が分かると本当に怖い。
語り口が諧謔的で軽妙なだけにその恐怖が際立ちます。
「新春のラビリンス」は廃ビルでの幽霊騒動が描かれます。
此方の依頼人も困った人物ですが,他の事件程には害がないかなあ。
自分に責任はないことに罪悪感を覚える葉村晶の姿に好意を抱きます。
「不穏な眠り」はちょっと分かり難かった。
芋づる式に不審な事件が連鎖する構造は楽しかったのですけれどね。
どの作品も丹念に貼られた伏線がきちんと生かされているのが素晴らしいです。
葉村晶は律儀で真摯で探偵としての矜持を無意識に守る姿勢が格好いいです。
だからこそ,どんな不運にあっても,美しささえも感じてしまいます。
想定外の事態に直面した際の率直な感慨も人柄を表している感じ。
相変わらず,自分好みの毒気に満ちたミステリィ短篇集でありました。
一時は止まっていましたが,ここ最近は割と定期的に新作が刊行されています。
今後も読み続けて行きたいシリーズのひとつであります。

(文春文庫 2019年)

タグ:若竹七海
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2019年12月05日

椹野道流『暁天の星 鬼籍通覧』

〈2019年読書感想71冊目〉
椹野道流『暁天の星 鬼籍通覧』


法医学教室を舞台としたミステリィシリーズ〈鬼籍通覧〉の第1作目です。
新装版刊行に伴う再読ということになります。
と言っても,久しぶり過ぎて内容を殆ど覚えていなかったのですが。
基本的には長篇作品と言えますが,一章だけは独立した物語となっています。
導入部ということであまり気にはなりませんが,ちょっと違和感がありました。
ミステリィとともにホラー要素が強いのもシリーズの特徴です。
今作での本筋となる連鎖する女性自殺事件では科学的に解明されない部分もあります。
法医学という科学捜査を主体にしながらということで楽しいです。
事件の真相というか発端は反吐が出る程に下衆なものですけれどね。
このあたりはあまり趣味であるとは言えません。
また,法医学教室が舞台ということで遺体の解剖場面が克明に描かれます。
作者が監察医ということもあって,生々しい描写が現実感があります。
苦手と言えば苦手なのですけれど,興味が先に立ってしまうのが面白いです。
自動車による轢死体の解剖場面は流石に辟易としてしまいましたけれども。
登場人物は個性が克ちすぎて,ややあざとさを感じてしまいます。
何処となく,所謂BL要素が強いのは気のせいなのか。
主人公である伊月崇とその先輩である伏野ミチルの組み合わせは好き。
後はいずれも何処か苦手な雰囲気を感じてしまいます。
物語としてはホラー風味が強いということで釈然としない結末ですね。
これを受容出来るか否かは読後感に影響してくるところでありましょう。
個人的には全ての謎が明かされる必要はないと思っています。
よって,それ程気にはなりませんでした。
幕間劇の「飯食う人々」の雰囲気が一番好きではありますけれども。
暫く休止していたようですが,再びシリーズとして再開されている模様。
今後も新装版の刊行を順次追いかけて行きたいと思います。

(講談社文庫 2019年)

タグ:椹野道流
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2019年12月04日

加藤実秋『メゾン・ド・ポリス4 殺人容疑の退職刑事』

〈2019年読書感想70冊目〉
加藤実秋『メゾン・ド・ポリス4 殺人容疑の退職刑事』


退職した刑事達の活躍を描く〈メゾン・ド・ポリス〉シリーズの第4作目です。
長篇だった前作とは異なり再び短篇集となっています。
個人的にはこのシリーズは短篇集のほうが似つかわしく思えますね。
収録されているのは全部で5篇。
食品偽装やネットバッシング,老人を対象とした詐欺等の現代的な犯罪が並びます。
1980年代を想起させる雰囲気が漂っていた加藤実秋作品にしては面白い趣向でしょう。
また,退職刑事達の過去が絡む事件が用意されているのもシリーズ恒例となっています。
何と言っても,個性豊かな退職刑事の面々の活躍が楽しい。
気障で瀟洒な化学分析屋の藤堂さんが一番のお気に入りかな。
彼らに振り回される牧野ひよりも着実な成長の跡が窺えるのが嬉しいです。
過去作よりも出番はやや控えめな印象がなくはなかったのですが。
ひよりの上司である新木課長と松島係長もいい味を出していました。
原田はあまりいいところがなかったのは残念です。
殺人容疑を掛けられた迫田さんが新木課長と原田に取り調べられる場面は大好き。
元刑事ということで手法を熟知した相手というのは遣り難いことでありましょう。
藤堂の元妻である沙耶ももう少し出番が欲しかったかなあ。
今作では夏目の過去が明らかになる第五話が好みでありました。
過去の犯罪を地道に捜査する退職刑事達の姿が頼もしい。
それぞれの得意分野に応じて活躍の場が与えられるというのが良いですね。
時間の壁に守られた真犯人がきちんと罰を与えられるのも因果応報でありましょう。
大掛かりな犯罪が描かれることがないのもシリーズの雰囲気に合っています。
伊達がメゾン・ド・ポリスを作った理由が次作での焦点となりましょう。
警視庁副総監だった伊達の過去は未だに描かれていないのですよね。
好々爺といった印象しかない伊達の現役時代の姿も知りたいものであります。
シリーズ好きとしては素直に楽しめる作品でありました。
〈ICE MOON〉の登場が少なかったりと過去作に比べて変化がある部分も見られます。
それも含めて更なるシリーズの展開が楽しみとなる作品でありました。

(角川書店 2019年)

タグ:加藤実秋
posted by 森山樹 at 06:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想