2019年11月24日

田中芳樹『アルスラーン戦記(15)戦旗不倒』

〈2019年読書感想69冊目〉
田中芳樹『アルスラーン戦記(15)戦旗不倒』


再臨した蛇王ザッハークの軍勢との戦いが苛烈する〈アルスラーン戦記〉第15巻です。
軍師であり宮廷画家でもあるナルサスが横死する重要な巻でもあります。
アルスラーンの将来を決定づけたのがヒルメスだったというのも運命的でありましょう。
その発端が単なる偶然に過ぎなかったというのも歴史の嘲笑を感じさせます。
今巻で主な舞台となるのはパルス以外ではミスルとシンドゥラ,マルヤムです。
ミスルではヒルメスを放逐し王座を奪ったテュニプと孔雀姫フィトナが中心となります。
テュニプの末路は悲惨なものでありましたが,同情には値しません。
というか,最後は完全に孔雀姫フィトナの術中に嵌まった感があります。
勿論,その背後に潜むラヴァンあってのことではあるのですが。
フィトナもラヴァンも此処まで重要な立ち位置となるとは登場時は思いませんでした。
特にラヴァンの真の正体はあまりに意外過ぎます。
これは当初からの構想通りということになるのでしょうか。
シンドゥラではパリパダが暴発し,カドフィセスが殺害されました。
カドフィセスは結局最後まで存在意義が分からなかったなあ。
一方でサリーマ王女の聡明さが素晴らしい。
そして,マルヤムではギスカールとヒルメスが再同盟を組むことになります。
ギスカールの器量をヒルメスが意外に高く評価しているのが面白いところ。
ギスカールは作中においてもかなり好きな登場人物なので嬉しいです。
ヒルメスは何と言うか坂道を転げ落ちるような運命でありますね。
チュルクでイリーナ王女とともに穏やかに幸せに暮らして欲しかった。
そのヒルメスとブルハーンによりナルサスとアルフリードが舞台から去りました。
最後にふたりが結ばれたのがせめてもの慰めというべきか。
しかし,ナルサスがザーブル城へ単独行を決めた理由は終ぞ理解出来ませんでした。
このあたりがやや個人的には消化不良な感があります。
それにしてもアルフリードとその夫を失ったメルレインの慨嘆が胸に迫ります。
ペシャワールに続き,ソレイマニエが落ち,ナルサスさえもアルスラーンは失いました。
蛇王ザッハークと魔将軍イルテリシュが率いる魔軍との戦いが迫ります。
更にヒルメス,フィトナ,ギスカールも健在という危機的な状況を迎えました。
残すはただ1巻のみ。
〈アルスラーン戦記〉に如何なる終幕が訪れるのか不安を感じる巻でありました。

(光文社文庫 2019年)

タグ:田中芳樹
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2019年11月18日

高田崇史『QED 憂曇華の時』

〈2019年読書感想68冊目〉
高田崇史『QED 憂曇華の時』


約8年ぶりに刊行される〈QED〉シリーズの最新作です。
此処のところ刊行されていた3作は一応外伝という扱いとなります。
本篇が再開されるということなのかは微妙なところ。
いずれにしても,一度は完結したシリーズの新作が読めるのは喜ばしいです。
内容としては外伝を含めた〈QED〉シリーズの基本形といった感じ。
謎めいた殺人事件とそれに纏わる歴史や文化の闇が解き明かされます。
尤も,殺人事件については特に面白みがないのもいつも通り。
舞台装置としてはそれなりの役割を果たしていますが,なくても別に問題はなし。
ダイイング・メッセージの無意味さを繰り返しタタルが指摘するのは好きですが。
また,本篇ということでなのか,タタルと奈々に加えて小松崎が登場します。
やはりこの三人が揃ってこその〈QED〉という印象がありますね。
今回解き明かされる歴史の謎は“安曇一族”を中心としたもの。
かつて一大勢力を誇った海の部族の物語が語られます。
穂高神社や宇佐神宮,住吉大社等が関わる壮大な歴史の闇が興味深い。
その規模は本シリーズの中でも最大と言ってもいいのではないでしょうか。
『卑弥呼の葬祭−天照暗殺−』とも密接に絡んでいるのが楽しいです。
あの時にタタルが何を調べていたのかが明らかになるのは良い趣向ですね。
とは言え,情報量があまりにも多過ぎて全てを咀嚼出来ていないのも事実。
少し時間を置いてから改めて再読したいと思います。
というか,〈QED〉シリーズ自体を改めて読み返してみたいですね。
この作品が新たな〈QED〉の幕開けとなることを期待したいと思います。
本篇で語られるように次回作の舞台は宇治ということになるのでしょうか。
意外に平安時代が題材のものは少なかったので楽しみにします。

(講談社ノベルス 2019年)

タグ:高田崇史
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2019年11月11日

櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 死者の花嫁』

〈2019年読書感想67冊目〉
櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 死者の花嫁』


夏休みのオカルト研究会合宿が楽しい〈ホーンテッド・キャンパス〉第4作目です。
五十嵐結花と片貝璃子が参加しているのは個人的に嬉しいところ。
小山内陣はまあどうでもいいです。
悪いやつではないし,寧ろいいやつだとは思うのですけれどね。
主人公の森司が過剰に意識して,望まぬ心理描写が増えるのが問題です。
今作も短篇集の体裁を採っており,全部で5話が収録されています。
家族を扱ったものが多いのが一応特徴と言えるのかしら。
なお,第4話と第5話が夏休み合宿中のお話となっています。
いつも以上に女性陣が多めで華やかですね。
途中で終わってしまった肝試しが残念に思えましたけれども。
「追想へつづく川のほとり」は部長と泉水の過去話。
それぞれに幼少期より個性を存分に発揮しているのが楽しいです。
虐げられている女性を救う為に奔走するふたりが格好いい。
そして,謎の美少年の正体は或る意味で明らかではありました。
「死者の花嫁」はこよみの大叔母に纏わるお話です。
こよみの両親が初登場するのも興味深い。
結果的には森司にとって都合が良過ぎる展開になってしまうのが残念かなあ。
何と言うか,自助努力に欠ける印象を受けてしまいます。
「うつろな来訪者」は釈然としない終わり方が割と好き。
明確に解決しない結末は恐怖小説のひとつの在り様でありましょう。
結花と璃子にはもう少し出番が欲しかったですね。
特に璃子は森司がお気に入りということで使い勝手はいいと思いますし。
相変わらず,森司に関する以外はお気に入りといったところです。
夏休み合宿に登場する食べ物がひたすらに美味しそうな巻でもありました。
学生ならではの明日を考えない合宿に懐かしさを覚えてしまいますね。

(2013年 角川ホラー文庫)

タグ:櫛木理宇
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2019年10月28日

櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 桜の宵の満開の下』

〈2019年読書感想66冊目〉
櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 桜の宵の満開の下』


人間関係に変化が見られる〈ホーンテッド・キャンパス〉第3作目です。
新たにこよみの元同級生で好青年の小山内陣が登場する巻でもあります。
今作も全部で5篇が収録された短篇集となっています。
また,怪異趣味はこれまでよりも更に不穏さを増しているのが素敵。
「白丁花の庭」と「泣きぼくろのひと」以外の作品は不気味な悪意を感じさせます。
と言っても,それ程恐怖感を覚えることはないのですが。
「泣きぼくろのひと」はなんとなく釈然としないのが残念。
事件を操る人の真意は分からないでもないのですけれどね。
関わった人たちを一番傷付ける終わり方になってしまったような気がします。
「覗く眼」は怪異よりも人間の所業のほうが遥かに怖い作品。
まあ,定番と言えば定番でありましょう。
一番好きなのは「月の夜がたり」かなあ。
雪女を巡る伝承を絡めた重層的な構造が楽しめました。
六部殺しが扱われるのも個人的には嬉しい。
小山内陣の登場で森司とこよみの関係が微妙に変化するのがじれったい。
というか,森司の煮え切らない心情に苛立ってしまうのですよね。
寧ろ小山内陣の完璧人間のようでいて少し抜けたところの方が魅力的。
読者からすれば,こよみの想いは明らかなだけにもどかしさを感じます。
そのこよみにもそれ程に魅力を感じないのが拍車をかけているというか。
圧倒的に先輩の藍の格好良さが際立っているのですよね。
花見の席に自分が釣った魚を刺身にして差し入れる豪快さもたまりません。
森司とこよみに陣を交えた三角関係が主軸になっていくのは辛いなあ。
これ以上となると辟易してしまいそうな感があります。
ホラー小説としての立ち位置からはぶれて欲しくないですね。

(角川ホラー文庫 2013年)

タグ:櫛木理宇
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2019年10月22日

神坂一『スレイヤーズ(15)デモン・スレイヤーズ!』

〈2019年読書感想65冊目〉
神坂一『スレイヤーズ(15)デモン・スレイヤーズ!』


絶望と憎悪に捕らわれたルークとの戦いが描かれる〈スレイヤーズ〉最終巻です。
最終巻に相応しく意外な人物の再登場もあるのが嬉しい。
ルークの正体というか真の姿は意外なものでありました。
思えば,いろいろと伏線は貼られていたのですよね。
赤眼の魔王シャブラニグドゥとの再戦は最後を飾るに相応しいものでありましょう。
〈スレイヤーズ〉らしくリナの機転が勝利に繋がるという展開も素敵。
ルークの真の望みがあまりにも切なくて悲しい想いが残ります。
此処に来て明かされたミリーナの最後の言葉もたまらないですね。
そして,ゼロスとルビアがまさかの再登場。
まあ,魔王との戦いなのでゼロスの登場は或る程度予測は出来ましたが。
相変わらずの人の悪さを存分に見せつけてくれます。
魔王との戦いの後に姿を見せたりしないのも彼らしいと言えるでしょう。
獣王ゼラス=メタリオムと海王ダルフィンも僅かながらに登場したのも嬉しい。
ルビアは『アトラスの魔道士』以来の再登場となります。
此方は顔見世ではなく意外に重要な立ち位置が与えられていました。
また,ミルガズィアとメンフィスも姿を見せてくれます。
遂に第二部にゼルガディスとアメリアが登場しなかったのは残念でしたね。
特にゼルガディスは赤眼の魔王との戦いであれば因縁はあったのですが。
尤も,ルークとの最後の戦いはリナとガウリイだけが臨むのに相応しい。
陰鬱な展開の続く第二部でしたが,結末は意外に爽やかなのが良かった。
魔族として目覚めながらも,ルークが悪に堕ちきれなかったのがひとつかな。
リナとガウリイの旅がこれからも続いていくという終わり方も好みです。
というわけで,〈スレイヤーズ〉の再読はこれにて終わりです。
改めて読んでも十分に面白かったのが素晴らしい。
この雰囲気を年を経て刊行された第16巻以降にも期待したいと思います。

(富士見ファンタジア文庫 2008年)

タグ:神坂一
posted by 森山樹 at 16:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想