2019年10月20日

神坂一『スレイヤーズ(14)セレンティアの憎悪』

〈2019年読書感想64冊目〉
神坂一『スレイヤーズ(14)セレンティアの憎悪』


表紙のミリーナの姿がいろいろと物語る〈スレイヤーズ〉の第14巻です。
陰鬱な雰囲気が漂う第二部の中でも圧倒的に後味が悪い巻となります。
この第二部の最終的となる存在がまさかの人物で驚きました。
人間に絶望する描写が続いたのが此処に収束するのかと感心しました。
第一部よりもシリーズを通しての伏線の貼り方が巧みなのですよね。
ゼルガディスやアメリアが第二部に登場しなかった理由も漸く分かります。
まあ,あくまでも創作上の制限と言えば,それまでなのでしょうが。
神官長の座を巡り4人の大神官による抗争が生じた都市が舞台です。
そこに巻き込まれたリナ達の戦いが描かれるというのはいつも通り。
すっかり存在を忘れていたゾードの再登場が大きな事件となるのは好み。
尤も,ゾードはその悪行に相応しい悲惨な末路を辿ることになるのですが。
終焉の引き金を引いてしまったのが取るに足らない人物だったというのがなんとも。
そして,中盤以降は復讐の鬼と化したルークとの戦いが続きます。
共に手の内を知り,気心も知れた仲ということでのやり難さが悲しい。
但し,それが故に相手の行動を熟知したうえでの心理戦は読み応えがあります。
今回の事件の黒幕の卑小さも呆気なくて,感情のやり場に困ります。
ルークにとってミリーナは或る意味で希望の象徴だったのでしょうね。
裏世界で暗殺者として生きてきたルークの過去が語られるのも辛かった。
ミリーナとの出逢いがそんなルークを救っていたのかもしれません。
だからこそ,ミリーナを失ったときの絶望と憎悪は計り知れなかった。
それでもリナとガウリイに暗に止めて欲しいと訴えるルークの心もまた本物。
第二部最終巻となる次巻ではルークとの決着が描かれることになります。
共に魔族と戦ってきたルークとの悲しい戦いのときが迫ります。
第三部の刊行も開始されましたし,第15巻も一気に読んでいきたいものです。

(富士見ファンタジア文庫 2008年)

タグ:神坂一
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2019年10月15日

櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート』

〈2019年読書感想63冊目〉
櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート』


ライトノベル系ホラー小説〈ホーンテッド・キャンパス〉の第2作目です。
引き続きの再読です。
今回も5篇が収録された短篇集となっています。
雰囲気としては第1作目を踏襲しており,割と軽めかなあ。
尤も,扱われる事件には明確な殺人事件も含まれているのも確かですが。
個人的には過去作の登場人物が出演の「幽霊の多い居酒屋」が一番かな。
璃子と結花の二人組は大好きなのですよね。
こういう感じに過去の登場人物との繋がりを描くのは好みです。
ミステリィ要素の強い「彼女の彼」も悪くないけれど,真相が見通し易い。
捻ってあるのが却って捻っていない印象を受けました。
生き人形が扱われる「人形花嫁」は怪奇度が割と高め。
但し,これも事象の主体が誰なのか分かり易過ぎるきらいがあります。
その根源となる力の正体が描かれなかったことは不満。
安直に或る種の超能力と捉えてもいいのでしょうけれども。
そして,主人公の逡巡する恋模様は本気で余計な要素に思えてしまいますね。
黒沼部長の背景が少し描かれたのは興味深かった。
藍のさばけたお姉さんぶりは健在というか,更に男前になっています。
幾篇かで姿を見せた矢田先生は今後も登場することになるのでしょう。
或る種の理想化された学生生活という描写は楽しい。
定型的な軽いホラー小説という印象をこれから如何に脱却するか楽しみです。
あまり陰鬱な方向に行って欲しくはないのも事実ですけれどね。

(角川ホラー文庫 2013年)

タグ:櫛木理宇
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2019年10月14日

櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス』

〈2019年読書感想62冊目〉
櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス』


大学のオカルト研究会を舞台としたライトノベル系ホラー小説です。
シリーズは現在も刊行中で,途中までは既読です。
で,何処まで読んだか分からなくなったので改めて再読を開始しました。
短篇集という体裁を採っており,収録されているのは5篇。
どれも怪奇趣味的には興味深いのですが,真相が好みではないのですよね。
怪奇現象の怖さというよりも人間の負の側面に苦しくなってしまいます。
描かれる怪奇現象は定番のものばかりですが多彩なのは嬉しいところ。
個人的には「南向き3LDK幽霊付き」が一番好みかなあ。
真相は何と言うか生理的に受け付けないの一言なのですけれどね。
依頼人の璃子と結花の精神的な強さというか図太さに惚れ惚れします。
全般的に登場人物は典型的ながらも魅力を感じるのは確か。
特にオカルト部の藍とこよみはそれぞれに個性豊かで良いです。
藍のさばけた感じは無茶苦茶格好いいお姉さんといった感じですね。
一方で主人公の八神森司がまるで魅力に欠けるのは残念過ぎます。
彼のこよみへの想いが物語の主軸となるのでしょうが,はっきり蛇足。
怪奇趣味要素は軽いながらも好みなので余計にそう思うのかもしれません。
とりあえず暫くは再読を続けていくつもり。
早めに最新巻まで追いつけられたらなあと思います。

(角川ホラー文庫 2012年)

タグ:櫛木理宇
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2019年10月11日

田中芳樹『創竜伝(14)月への門』

〈2019年読書感想61冊目〉
田中芳樹『創竜伝(14)月への門』


16年ぶりに刊行された〈創竜伝〉の第14巻です。
時事的な要素が多いだけにまさか復活するとは思っていませんでした。
前巻までの内容は朧気にしか覚えていなかったのですが,一応何とかなりました。
人間関係さえ頭に入っていれば十分に補えることでありましょう。
今巻は京都から名古屋までの竜堂兄弟たちの旅路と京都幕府の行く末が中心です。
竜堂兄弟は相変わらず降りかかる火の粉を圧倒的な強さで払うのが楽しい。
以前に倒した牛種の幹部である共工の後継が登場しますが,そんなに強さは感じない。
寧ろ,その悪辣で狡猾な手法が印象的でありました。
特に飛天夜叉や野狗子による名古屋襲撃はかなり残虐な場面が多い。
富士山噴火で壊滅的な関東に加えて混乱に拍車がかかります。
一方の京都幕府では征夷大将軍の小早川奈津子が大暴れといういつもの展開。
その圧倒的な存在感は時を経てもかなり印象的でありました。
水池や蜃海,虹川も出番はそれなりに多いのですが,完全に活躍を食われています。
一方で上畑医師が妙に描写が多かったのが気になるところ。
或いはこの人も水池たち同様に竜種に仕える存在なのかもしれません。
そして,竜堂兄弟の支援者として活躍してきた黄老がこの巻で舞台から降りました。
その最後はあっさり過ぎて,あまりにも悲しい。
あの世というものがあるならば,弟の黄大人と再会して欲しいものであります。
気になったのはスマホやインスタグラムなどという言葉が頻出したこと。
物語の最初はまだソビエト連邦が健在だったのですよね。
時代背景が全く分からなくなってしまっています。
時事要素が強く扱われる作品だけに仕方のないのですが,違和感を覚えざるを得ません。
そして,来年刊行予定の第15巻で物語は完結するとの予告がありました。
この状態から如何に落としどころを模索するのか期待よりも不安が大きいです。
牛種を統べる蚩尤も今だ本篇には登場していませんからね。
舞台が牛種の本拠地である月の裏側ということになりましょう。
幾つかの伏線の解消を含めて何処まで納得ある終わり方となるのか注目します。
相変わらず,瑤姫が一番魅力的だなあと思い出した巻でありました。
何はともあれ,再開自体は喜ばしいことではありますね。
既刊分が入手出来るようならば,再読を進めて行きたいと思います。

(講談社ノベルス 2019年)

タグ:田中芳樹
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2019年10月06日

五代ゆう『グイン・サーガ(146)雲雀とイリス』

〈2019年読書感想60冊目〉
五代ゆう『グイン・サーガ(146)雲雀とイリス』


吟遊詩人装束が絵になるマリウスが表紙の〈グイン・サーガ〉第146巻です。
パロの王子よりも,ササイドン伯よりも,この姿がマリウスには似つかわしい。
尤も,現在はそうは言ってもいられない状況ではあるのですが。
或いはこの状況下でも自己の自由のみを目指すマリウスが素敵というか。
その素敵さは無責任であるということと同意義ではあります。
相変わらず,幾つかの重大な事象が同時に進行しているのが楽しい。
グインはクリスタルで復活したアルド・ナリスに遂に再会を果たしました。
この甦ったアルド・ナリスはヤンダル・ゾックによって作られた存在なのかな。
とは言え,その精神の在り方はかつてのアルド・ナリスそのものですが。
生という頸木から解放された彼が追い求めるのは飽くなき知識欲のみ。
ヤンダル・ゾックに盲従することのない彼の存在は今後の鍵となりましょう。
そして,沿海州ではそのクリスタルを巡っての会議が執り行われました。
久しぶりにライゴールのアンダヌス議長が登場したのは嬉しい。
早速,アグラーヤのボルゴ・ヴァレンとともに謀略をパロに仕掛けようとします。
此処にドライドン騎士団のファビアンが絡んでくるのは興味深いですね。
彼の真意,そして雇い主は未だに謎のまま。
意外に重要な存在となってくるのかもしれません。
イシュトヴァーンへの復讐心に燃えるマルコ達とは異なる道を歩むのでしょう。
カメロンへの恩義とスーティへの愛着に揺れるブランの決断も気になります。
スーティの弟であるドリアン王子にもまた数奇な展開が訪れました。
アストリアスが至って常識的な存在へと回帰したのは喜ばしい。
これでモンゴールにも戻れぬ身となってしまいましたけれどね。
グラチウスの元にドリアンとスーティが揃うというのはどうなることか。
仇敵であるイシュトヴァーンの子たちを守護する騎士にアストリアスはなるのかな。
ケイロニアではリギアとヴァルーサの邂逅が楽しかった。
このふたりの気が合わないわけがないですよね。
一方でハゾスはやっぱり好きになれないなあ。
事態の混迷に一役買っている自覚はあるのかしら。
歩みは遅いながらも着実に物語が進行しているのは嬉しい。
中原の諸国家に沿海州も加えた壮大な物語の続きを楽しみにします。
どの国にもヤンダル・ゾックの影が垣間見えるので未来が予測出来ません。

(ハヤカワ文庫JA 2019年)

posted by 森山樹 at 11:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書感想